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『あら?花梨ちゃんじゃない?元気だった?
今日こっちに着いたばかりなのに拓海ったら時差惚けなおす為に波乗りに行くってうるさいのよ~もう!死んだパパそっくり!』
あの事件以来、男に縋る事を辞め、夜も寝ずに働き息子の帰りを待った拓海の母。
借金の返済も終え、親業に専念と今回は息子のマネージャーとして一緒に着いて来たとか…。
『うるさいオババが来たからちょっくら、海入ってくるな。まったくさ…じゃあな。』
拓海は面倒臭そうにしかめ面でそう言うと、一人沖へとパドリングを始めた。
ホスト時代とはまるで違う昔のままの拓海だ。
花梨はほっと胸を撫で下ろすと、何とも言えない気持ちになり胸が熱くなった。
『二人ともこっちにいつ迄居れるの?
ところでどこに泊まるの?どこのホテル?』
嬉しさのあまり、質問攻撃だ。
『真由美さんのご好意でね、一週間は花梨ちゃんのおばあちゃまの家、後一週間は紹介してもらったホテルよ、聞いてない?
でも二人の邪魔はしないから安心してね。』
にやけながら話しこちらを指さし照れているようにも窺える。
もう、何も聞いてないよ。
やられた…
口に出そうな思いを花梨は飲み込み心の中で呟いた。
それもそのはず、二人が来る事を驚かせようと花梨の祖父母は秘密にしていたのだった。
『これから、おばあちゃまの教室にフラダンス習いに行ってくから、じゃぁね。♪ラララララ~』
子供の様にこちらに両手を振ると、一人鼻歌を歌いながら行ってしまった。
相変わらず元気の良い拓海ママは、二週間のスケジュールを自分の為にびっしり埋めていた。
マネージャーというのは口実で自分が楽しむ為、海外旅行に来ているようだ。
翌朝…
花梨は一人まだ薄暗い海辺へと散歩に出かけた。
ザザァ~ザザ~ッッ
朝の海辺は静かで、波の音だけが響いている…
なんとも言えない神秘的な光景に、
両手を合わせた。
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