集うこと話すこと

1/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

集うこと話すこと

「どうでもいい話をどう考える?」  『思索家(しさくか)』がそう話を切りだし、同じテーブルの席に座る他の四人を見回した。  唐突な問いかけではあったが、戸惑う人はいない。いつものことだからだ。 「どう、というのはどんなニュアンスかな?」  まず応じたのは『思索家』以外の唯一の男性である、『良識家(りょうしきか)』だった。中性的な整った顔立ちに柔らかい笑みを浮かべてはいるものの、どこか昏さを感じさせる眼つきをしている。 「雑談、世間話、無駄話。それらの効能についてだ。無駄と言いつつもここでその必要性を感じない奴は多くないだろう」 「まあ、それはそうだろう。私としては次々に人が狂っていくのを見るのも楽しいけれどね」  次に応じたのはこの中では最も年下に見える、髪や肌や瞳までが色素の薄い印象の小柄な女性。ボーイッシュな印象を与えるショートカットで、表情も話し方もまるで自分だけ別の場所にいるかのような余裕が見える。 「『看視者(かんししゃ)』としてはそうかもしれないが、君にしても話し相手が欲しいときはあるだろう?」  『思索家』がさらに言うと、『看視者』と呼ばれた彼女はどこか面白がっているような笑みで頷いた。 「それはそうだね。私は聞いてるのが好きな方だけど」 「好きかどうかはともかく、私たちはだいたい聞き役になっているけれどね」  そこで入ってきたのはうりふたつの容姿をした二人のうちの片方。姉妹の姉のほうだった。続いて妹も口を開く。 「あなたがいつも一方的に喋ってくるから。頼んでもないのに」  華やかなドレスに身を包み、頭から顔から爪の先まで全身くまなく美しく整えられた姿の姉妹は、目元が明確に違う。  服装や髪形などでの見わけも普段からつくが、姉はどちらかというと吊り目で、妹のほうはやや垂れ目。 「話題を提供するのが役目と捉えているからだ。俺が始めた会であれば当然だろう」  『(ふた)()』。このあだ名はさすがに本人たちに直接言う者はいない。もっとも、『命名師(めいめいし)』がつけたこれらのあだ名を普段から互いに使い合っているわけではない。名前で呼ぶのが通常で、あだ名はジョークのような使い方だ。  『思索家』の主張を受け、姉は仮面のような薄い笑みを浮かべ、妹は不機嫌そうに眼をそらす。二人の性格がまったく異なることは誰しもが接してみればすぐにわかることだった。  『思索家』、『良識家』、『看視者』、『双つ子』の二人。  この五人がつく白いクロスがかけられたテーブルの上には紅茶の入ったティーカップと洋菓子が人数分置かれている。  そして『思索家』の後ろには無貌の白仮面をして使用人服を纏った女性が控えている。同じような格好をした『使用人(しようにん)』は他にもいるが、この一人だけがごく近い距離にいるのは、『思索家』がほとんど常に連れているため。  しかし『思索家』は主人ではなくゲストであるため、あくまで現状つけられているだけという扱いだ。  『使用人』はあくまで気配を消し、紅茶のおかわりを注ぐときなどに必要最低限動くのみ。しかしそれは使用人らしいというよりは、まるでロボットのようにまったく温度感のない所作だった。上品なのではなく無機質な動きは、使用人として考えたならばむしろ良くないだろう。  いずれにせよ、この会において『使用人』が話を振られることはない。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!