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『看視者』が笑みながら『思索家』を見た。
「むしろこの中では君が一番その危険性があるかもしれないよ?」
「そうだな。そうかもしれない。だがまあ現状俺も許容はできるだろう。あとは会の参加人数の上限だろうか」
『看視者』は声を出して笑う。
「それも同じだよ。君が許容できるだけってこと。要は君が君の話を聞いてもらえていると思える上限が何人までかって話なんだから」
「君たちのほうに異論がないのであれば、そういうことになるか。ふむ、実に俺好みのルールの緩い会のまま在れそうだが、それで君たちに得られるメリットはあるだろうか」
『双つ子』の妹が『思索家』を睨みながら何かを言おうとしたところで、姉がその頬を指先でつついた。それを受けて妹は不満げに姉を見つつも、
「まあ、ないこともないかもしれないわね」
と言い、
「ええ、私たちはそうよね」
と姉も続いた。
「僕は充分だよ」
「私も、充分すぎるほどだね」
残りの二人もそう言ったのを聞き、『思索家』は話の締めに入る。
「・・・とにかく、それぞれに参加する目的が何であれあるのならいい。それにより会が消滅することになるとしても、俺は許容しよう。恨み恨まれるのも面倒だ。狂人が参加してきても俺の精神に害がないなら受け入れる。逆に常識人でもあまりにも面倒であれば俺の独断で弾くこともあるかもしれない。要はこの会の決定権は俺が持つことになるが、それで構わないか?」
四人は無言だったが、それが肯定の意味であるのは明らかだった。
「いいだろう。それこそ面倒な話をした気もするが、俺からの話はまずはこれまでとする。いつまで続くかもわかりはしないが、そのときまではそれなりに続けていくとしよう」
小さな笑い声を『看視者』が漏らした。
「異常者が異常者のまま参加し続けられる会は貴重だからね。しばらくは続くだろうさ」
『思索家』も軽く頷いて同意する。
「むしろ常識人のほうが参加しにくいだろうな。ここではそれほど多くないだろうが。しかし異常者であろうが常識人であろうが俺のメリットになるならばどちらでもいい。たとえそれが不謹慎でも、無駄話が許される場でありさえすればな。ここが閉ざされた場であるからこそ、それの重要度は増す」
「平穏が大事だからね」
「私たちは私たちだけでいいの」
「そう、私たちはね」
「人が狂うのを楽しむには自分は保たないと」
それぞれの声を受けて、『思索家』はそれぞれの想いがぶつかり合っていないのかと考え出しそうになって、すぐに首を横に振る。
「目的は会の存続ではないのだから、自壊するのならそれもまた良し、だろうな」
その声には諦めすらなく、淡々とした響きだけがあった。
そうしてこの話題が終わり、洋菓子と紅茶を嗜みながらの会話は普段と変わりなく、この後もしばらく続くことになる。
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