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僕は暗くて冷たい場所にいる。しかし不快ではなく、むしろ心地よい環境だった。
あーここにずっと居られたらいいのにな……いつものように目がまどろんできた。
しかし僕の安眠は何者かに妨げられた。体全体を持ち上げられたかと思うと、硬い木の上に寝かせられた。そいつは銀色に光るものを取り出すと丁寧に僕の皮をはいでいった。その後は次々と僕の体が細くされていく。手が、足が、胴体が、半分がまた半分に、半分の半分の半分半分半分… .
やがてすべてのパーツが小指の爪ほどの大きさになったところで止まった。
ざらざらと落とされるとひやっとした感覚がした。その後ぬるくてねとっとしたものが落ちてくる、なんだこれ気持ち悪いな。
そうした感覚も束の間、だんだんあったかくいや熱くなってきた
あつい!あついあついあつい!!
自分の中の水分が沸騰していく。
ぼこっぼこぼこぼこ
攻撃的な水分の蒸発が耳の内側から聞こえる恐怖。
先ほど体をバラバラにされた時もたまらず悲鳴をあげたが、今回の灼熱地獄はその比ではなかった。もう自分とはつながっていないはずの感覚器官全ての苦痛を受容してしまっている。
体の中で爆発と発散が幾度と無く繰り返された。
早く、早く‼︎解放してくれ!!
自分が耐えられる痛覚の閾値をはるかに超えてしまっている、そもそも切り刻まれた時点で死んでいるはずなのに、なぜか僕の意識は明瞭に保たれている。
そんな現状を打破できもしない下らない思索は一瞬にして熱が舐めとっていく。
そんな思考も聴覚も触覚も苦痛で埋めつくされた苦行の時間は、しかし唐突に終わりを迎えたようだっだ。だんだんと炎が和らいでいく。
一息ついたところで空から何かが降ってきた。
ぼとっぼとっどばばば
なんとそいつは真っ赤な液体だった。さらさらと言うよりはどろっとしていて時々塊が落ちているのが不気味だ。あれは…臓器か…?
自分とは別の生命体、しかも既に解体されたものがまとわりつくのは吐き気を催すほど気色悪くまた恐怖でしかなかった。
落下が終わると、突然目の前の塊がぎょろっと目を開けた。
こいつも生きてるのか!?
恐ろしさのあまり黙って固まっているとそいつはおもむろに話しかけてきた。
「おやこんなところにお仲間がいるとは。君も大変だったろうに」
瞳の大きさと肉塊がほぼ同じ大きさだったので、勝手に目玉おやじと名付けた。それにしても何のことを言ってるのか。お前と僕が仲間?
僕がキョトンとしていると、目玉おやじは話を続けた。
「君も人間だったんだよ、覚えていなさそうだけれど。でも自殺したんだ、そして君はニンニクになった。命を粗末にするやつは食材にされてしまうのさ。今回僕はトマト缶にされたらしいね。」
「しょ、食材?ニンニク… .」
僕は頭が文字通り真っ白になり、ただただオウム返しをしていた。
「そうショクザイ。食材には贖罪の意味がかけられているんだよ。僕や君のように自殺という罪を犯した人間は他人様の糧になることで償うんだ。さぁそろそろお別れの時間みたいだよ。」
自分が見上げることのできる上空の遥か上から声が降ってきた。
「本日の3分クッキングはトマトソースでした。初めからニンニクをしっかりと炒めるのがポイントです。」
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