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「2日って・・・1日だろ?」 『金曜の夜からだから2日!まる2日もスマホを見ないなんてどうしたの?本当に忘れてどこかに行ってたの?!』 香里奈の言葉に頭が追いつかない。 「金曜日からならまだ1日だろ?」 それを言ったら思いっきり呆れた声がした。 『何言ってるの?今日は日曜日だよ。今は日曜日の夜の7時!』 日曜日?! だって昨日会社から帰ってきて和真さんに捕まったんだから土曜日なんじゃ・・・。 『綾兄大丈夫?もしかしてまた冬眠したの?そこに誰かいるの?』 冬眠、という言葉にはっとした。 もしかしてオレ、やらかしたかも・・・。 「ごめん、香里奈。また掛け直す」 そう言ってまだ何か話してた香里奈を無視して電話を切った。 オレは昔から、疲れると寝てしまう変な癖があった。 それはもう赤ちゃんの頃からで、今まで元気に遊んでたと思ったら急に動かなくなって親を驚かしたらしい。 親は最初びっくりして病院に連れて行ったそうだが、ただ寝ているだけだと判明して、それからは驚かなくなったそうだ。 まるで電池が切れて充電しているようなので、その現象はまんま『充電』と呼ばれ、大体2~3時間で終了する。でも、大きくなるにつれて疲れの度合いも増すのか、時々長く目覚めないことがある。その時は『冬眠』と呼ばれた。 オレ冬眠しちゃった?でも今までだって長くても1日で、こんな丸2日なんてしたことない。それに、これは家族がいないと起きない現象だ。 大学進学を機に一人暮らしを始めて心配だったのがこの『充電(冬眠)』だ。もし一人の時にこれが起きたら大事になりかねない。最悪命の危険もある。火をかけっぱなしとか、入浴中とか。なのでオレの家はIHだし、入浴は顔が沈まないようにいつも半身浴だ。それでもゆっくり浸かりたい時は首に浮き輪を巻いて沈まないようにした。 でもそんなことは杞憂だった様で、家族がいない所では起きなかった。本来起きてもおかしくないくらい疲れている時は反対に眠れなくなり、不眠症に陥る。それが最初分からなくて原因不明の不眠症に体がガタガタになり、どうしようもなくなって実家に帰った途端玄関で冬眠に突入したのだ。彼女と一緒でも起きなかったので、多分安心できる人がいないと起こらないことらしい。 それが和真さんのそばで起きた・・・。 それは思ってもみない事だった。だから冬眠のことは一切話したことは無い。こんな関係になってまだ2週間だし、いつも流されて自分の気持ちを考える余裕がなかったから。でもまさか、こんなに心を許してたなんて・・・。 たしかに今回のことで和真さんへの思いを自覚したけど、その前に冬眠しちゃうとは思わなかった。 和真さん、びっくりしただろうな・・・。 オレ、冬眠中はピクリとも動かないらしいし。知らなかったら死んでると思うよね。 思えば和真さんのあの姿・・・昨日今日であんなに無精髭生えない。クマもできてたし、驚きと言うよりは、もしかしたら心配してくれたのかもしれない。 だからあんなに優しかったのかな・・・。 威圧感も無くなって、ひたすらオレの世話をしてくれた。本当に家来のように・・・いや、家来よりももっと・・・下僕?本当にそんなことまでやってくれるの?てことまでしてくれて・・・。 オレ、いろいろ考えちゃって、勝手に拗ねてバカみたいだ。 まだちょっと立って歩くには足が震えるので、オレは四つん這いになってドアまで行くと、音を立てないようにそっと少しだけ開けた。 隙間から見る和真さんはソファにどっかり座って頭を抱えていた。全体的に疲れが滲んでいる。なんかさっきよりもくたびれた感じ・・・。 いつもはあんなに高圧的でエラそうなのに、今はその面影もない。 こうなったのはオレのせい? そう思うと申し訳ない気持ちの反面、ちょっとうれしくなった。 和真さん、オレのためにあんなに弱っちゃうんだ。
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