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僕が振り上げた拳の置きどころに困っていると
「ごめん!別に馬鹿にするつもりは全然ないから!」
あれだけデリカシーのない事を言っておきながらまぁぬけぬけと。
自分にかかってる疑いを晴らそうと更に遠野は続ける。
「とにかく、健は自分が目指す方向性を間違ってるよ。その髪型と服装じゃ成りそこないのギャル男じゃん。」
「でも、色々調べてみたらこういうのがイケてるって…」
「何処情報だよ。女子ウケ狙いたいんなら服装はシンプルで髪型は爽やか、清潔感!これ大事。」
もしかしてアドバイスしてくれているのか?
僕は少しずつ遠野の話に耳を傾けだした。
「つまり何が言いたいかって言うとオレに健の事をプロデュースさせてくんない?
悪いようにはしないぜ!」
確かに先程までのコイツの意見は非常に参考になる…気がする。
実績も僕なんかよりはずっとありそうだ。
だが果たして今日会ったばかりの赤の他人をそう簡単に信じても良いのだろうか?
それに他にも気になる事がある。
それは…
「あのー、ひとつ聞きたいんだけど、なんで今日会ったばかりのオレにそこまでしようと思ったの?」
「なんでって…そりゃあまぁ…面白そうだから。」
自分にとって当たり前過ぎて少し返答に困ってた感じだったが、直ぐにさも当然のように遠野は答えた。
「面白そうって…こっちは真剣なん…」
「はい、串盛り合わせお待ちどう様。
ごゆっくりしていって下さいね。」
「…まっ!細かい事は気にすんなって!
とりあえずやってみて、それから考えれば良いじゃん。」
とりあえずやってみて。
時にはそういうのも良いのかもしれない。
テーブルに並べられた串を頬張りながら当時は
(なんだか面倒くさいヤツに絡まれたかも)
くらいにしか思ってなかったが、後にこの出会いは間違いなく僕の人生を左右する物だったと気付く事になる。
これが遠野 隆という男との初対面だった。
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