遠野 隆という男

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遠野 隆という男

欠落したコミュニケーション能力を養い、軍資金を稼ぐ為に勇気を出してアルバイトも始めた。 そうやって勉強、自己研鑽、アルバイトと毎日色んな事に忙しく打ち込んでいる内に日々はあっと言う間に過ぎていった。 そして無事志望校にも合格し、いよいよこれまでの努力の成果が試される大学生活が始まったのだった。 しかし1週間、2週間と過ぎても僕は誰とも話さず一人のままだった。 これは…デジャヴ…?? いや、理由は分かってた。 結局僕は初対面の人との距離の詰め方が絶望的にヘタクソなのだ。 アルバイトをして多少は人間関係を広げはしたが、バイト仲間とまともに会話できるようになるのに何ヶ月もかかった。 強制的に話さざるを得ないシチュエーションがないと駄目なのだ。 せめて何か共通の趣味とかきっかけがあればと頭を抱えていたその時、近くで話してる学生達の声が聞こえてきた。 「お前、今日の飲み会行く?」 「新入生歓迎会でしょ?行くしかないでしょ〜。」 「先輩も可愛い人結構いたし、同学年の子とも仲良くなるチャンスだからな〜。」 某お笑い芸人並に耳が大きくなっていた僕は今の会話を一字一句逃す事なく聞き取った。 これは又と無いチャンスではないか!? だが一人も知り合いがいないのにそんなとこに飛び込んで大丈夫だろうか? あれこれ悩んでる内に教室から出て行こうとする学生達。 えぇいっ!!迷ってる暇などない!! 僕は勇気を振り絞り声をかけた。 「あ、あのさぁ〜」 学生達は後ろから急に裏返った妙な声色で話しかけられ驚いた様子だった。 「その飲み会ってぇ…ぼ、オレも行っていいかな??」 「えっ?まぁ大丈夫じゃね?先輩達もガンガン人呼んでって言ってたし。」 「あっ、そうなんだぁ、えっと、時間と場所は?」 僕が質問した後にアイツは僕の顔から足までをまるで値踏みする様に視線を送ってから 「あ〜、じゃあ一緒に行くか!18時30分に駅の北口集合な!」 「えっ!?わぁ分かった!あぁありがとう!!」 あの時の僕はアイツの突然の誘いに只々困惑してるだけだった。 だがこの後すぐヤツの思惑が明らかになる。
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