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「くそっ、どうにかならないのか、こののろま宇宙船!」
ゴウンと隔壁を叩く音が船内に響いた。真守が苛立っている。
無理もない、地球を出て八カ月、隔離された空間でたった三人の生活は精神的にも限界にきていた。
「他国の連中がもうそこまで近づいてきている、イオン推進力あげないとまずいですよ、船長」
「惑星軌道を計算したうえでの最適化された航行計画だ。速度の変更は不可能だよ」
「そんなことはわかっています。でももし一番乗りできなかったら、俺達のこれまでの苦労はどうなるんです?」
火星有人探査――世界各国がしのぎを削って、競争を始めていた。火星に初めてブーツの跡をつけるのは、どの国か?
宇宙開発で出遅れた日本は起死回生、一発逆転を狙い小型有人探査船を独自開発、単独宇宙航行に踏み切った。日本の技術を世界にアピールするまたとない絶好の機会。
「ロシアで開発された大型プラズマ推進システム、たったの二カ月で火星まで到着するって、どういうことです? こっちはやっと目前まで来たっていうのに……」
「技術は常に進歩しているからね、しかたがないわよ。まあ落ち着いて。計算でいくと、ギリギリ二十時間の差でこの『ひのとり』が先に到着する予定」
ひのとり……火星に舞い降りる日本の不死鳥、有人探査船に命名された。
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