ひのとり

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 ふうっと有美が息をつくと、真守はすぐに船内のアシストグリップに手をかけ、強化ガラス窓から外を覗いた。  ポッドの周りには赤い暗闇がとり憑いていた。  外を覗いても観えるのは粉塵が舞う様子。  やがて二酸化炭素の乾いた風が、覆われたヴェールを徐々に払い除け、その全容を現し始めた。  赤い大地に大小の岩が点在し、遠方にオリンポス山がそびえる景観が広がった。 「……成功だ、やったぞ有美、人類初の有人火星着陸成功だ!」  有美はニヤリとすると、真守に右手を差し出した。それに呼応して真守はその手をポンと軽く叩いた。  真守は急いで通信マイクに口を近づける。 「船長、聞こえますか? 無事着陸しました、成功です」 「聞こえている、おめでとう。ただ……まもなくその付近にアメリカの宇宙船が降下する、船外への探査を急いだほうがいい。第一歩を取られるかもしれない」 「なんですって?」急いで窓から空を見上げる。隕石のように赤い火球が落下してくるのが見えた。 「有美、まずい、アメリカの船が降下を始めている。急いでヘルメット装着だ」 「ちょっと待って、グローブと酸素タンク装着、カメラ、通信ケーブル……ああ、もうやることがいっぱい!」 「いいから早くヘルメットを被れ、有美が先に出ろ!」 「あなたが一番乗りじゃないの?」 「この着陸を成功させたのは君だ。君こそ最初の足跡をつけるにふさわしい」 「いえ、その権利はあなたに譲るわ。あなたの機転が導いた結果よ」 「早くしないと、他の奴らに先を越される」
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