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真守は腕を組んでじっと考えていたが、手を顎にやり険しい表情で呟きはじめた。
「いや待て、まだ手はある……あれを使いましょう」
「……あれとは?」
「緊急脱出用カプセル、あれで火星に降下する」
「正気か? 確かに探査機用降下システムと同等のものが搭載されているが、有人での検証はされていないぞ」
「それを言ってしまえば、元々人類が火星に降り立つこと自体が無茶な話です。やらせてください、船長」
「命の保障はない……しかしここまで来て諦めるのは私も不本意だ。わかった、私が降りよう」
「いえ、俺に行かせてください、どうしても火星の土を踏みたいんです。エンジンの故障も私の確認不足です、責任を取らせてください」
「ちょっと待って、真守の腕では着陸ポッドの軟着陸は無理よ。私が行きます」
「なんだと? 俺では信用できないと言いたいのか?」
「まあ待て、落ち着こう。……最大搭乗員数は二名」
誰か一人はここに残り、管制センターとの通信を受け持つ必要がある。着陸後、火星にたった一人というわけにはいかない、アシストが必要だ。
「わかった、真守、有美、二人で降りてもらおう。私はこのミッションの遂行承認を受けるために、管制センターへの説得を試みる。まもなく周回軌道に入る、二人でカプセルの降下タイミング計算と準備を進めておいてくれ」
「了解しました」二人は顔を見合わせ、息をひそめて無言で頷きあった。
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