ひのとり

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 私はすぐに管制センターへ打診を行った、もちろん否定的な回答が待ち受けていた。――生命を危険に(さら)すわけにはいかないと。  そこで直接宇宙開発機構理事長への交渉を試みる。数時間のうちに急遽プロジェクトチームが発足され、地球側でも検討が始まった。  各種シミュレーション、耐久性の検討結果は逐次ひのとりに共有された。現場の熱意が伝わってくる、彼らも決して諦めてはいなかった。  緊急脱出ポッドに荷物を積み込み最中の真守は、通路で有美とすれ違った時にふと声をかけた。 「有美……君は優秀なパイロットだ、火星探査に任命されたのは当然の結果だと思う。でも俺が選ばれた理由はなんだろう? やはり親の七光りだろうか?」 「……情熱じゃないかしら? 志願した宇宙飛行士の中で、あなたが一番このミッションに意気込みがあったから」 「たしかに俺には思い入れがある。親父が宇宙開発機構に勤めていた頃、火星着陸探査機を飛ばしていたが失敗に終わった。悔しがる顔が今でも頭から離れない……子供の頃決めたんだ、俺が代わりに夢を果たすと」 「大きな壁を乗り越えるには、最後まで諦めない気概が必要だったのよ。そういう意味では本部の判断は間違いなかったんじゃない?」 「そう言ってくれると俺も自信が湧いてくる、ありがとう。そういえば有美は何故志願したんだ? わざわざ危険なミッションを選ぶ必要もなかったと思うんだが」 「私? 私はすべてが一番じゃないといやなの。だから火星に降り立つのも私が一番」 「悪いがそれは譲れない、これは今は亡き親父への(はなむけ)だ。俺が先に踏ませてもらう」
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