ひのとり

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「真守、有美、ちょっと来い。管制センターから連絡が入った」  私が声をかけると二人は手を止め、こちらに不安を(にじ)ませる視線を向けた。 「聞いてくれ、本部から最終判断が下った。結果は……“GO(ゴー)”だ!」  普段無表情の有美から笑みがこぼれた。  真守はよし! とガッツポーズをつくると、瞼を少し滲ませた。 「まだ終わったわけじゃない、これからが始まりだ。気を引き締めていくぞ」 「了解」  まもなくして、ひのとりは火星の周回軌道に突入した。赤い地平線が続く黒い空がコクピットから一望できた。 「とうとう来ましたね、火星へ。なぜだろう、荒涼とした景観なのに恐怖を感じない、それどころか美しさすら覚える」 「ここは我々の第二の故郷になりうるからな、自分の故郷を愛さない者はいないだろう……二人とも準備はできているか?」 「準備完了です。後はカプセルに乗り込むだけです」二人はすでに白い宇宙服を身に(まと)っていた。  無重力空間の中、三人で船体最後部にある脱出カプセルに向かう、エアロックのハッチはすでに開かれている。二人は開口部を通過すると、宙に浮きながら私に顔を向けた。 「それでは、行ってきます」 「ミッションの成功を祈る……これも持って行ってくれ」  大きな折り畳みの棒を渡した。 真守は棒を折り返して広げてみる。 「これは……日本国旗」 「火星の大地に、赤い日の丸を打ち立ててきてほしい」 「わかりました、船長の想いを必ず実現させます」  ありがとう、私の夢は君達に託した。  お互い軽く敬礼をすると、私はハッチを閉じロックを固く締めた。
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