風に流れて聞こえた声。

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風に流れて聞こえた声。

『――嫌い』  ふと聞こえた声に、ハッと目を見開く。  キョロキョロと辺りを見回すが、特に人らしき影は見当たらない。 『――なんでみんな、私を見ないの』 『な~』  ふわり、と風が通り過ぎた。  その風が吹いてきた方を振り返る。  ――この先から、聞こえた?  だが、もう耳をすませても、それ以上何も聞こえてこない。  私はゆっくりと立ち上がって、スカートをはらい、バッグを肩にかけて柄を握った。  ――そういや私、なんで制服なんか着てるんだろ。  ふと変に思って、見下ろす。  灰色のプリーツスカートに、紺色のブレザー。赤いネクタイと白いシャツ。黒いスクールバッグは、赤と黄色の花束みたいなストラップが一つ、ついている。 「あれ? このストラップ……っつ!」  ズキン、とこめかみの辺りに痛みが走る。驚いて抑え、目を瞑る。  ズキン、ズキン、ズキン――。  ゆっくり呼吸を繰り返し、治まってきたところで、ふう、とため息を吐いた。  ――ていうか、起きるまでの記憶もないや。  こんな世界に来る前、一体何があったのか。それすらも頭に残ってない。  ずっと寝ていたのだろうか。だとしたらなんで制服を着ているのか。  またズキン、と頭が痛む。これ以上考えるのは無理みたいだ。  私はすっと顔をあげる。  砂が続くその先。さあ、っと風が吹いてくる。 「……とりあえず、行ってみるか」  声が聞こえた方へ、ゆっくりと荒廃した世界を歩き始めた。
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