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こちらを見ていた黒猫。
しばらく真っ直ぐ歩いてから気付いた。
「――東京タワーが埋まってる」
それは不思議な光景だった。
あの赤色のキラキラしていた高いものが、今は私の横で、斜めになって砂に埋まっているのだから。
「白い紙に、ペンで書いたみたいだ」
変な感じ、と、気付けば足を止めてみていた。
「――もう、いいや」
つぶやいてまた、前を見る。瞬間、ビクッと肩が震えた。
『――にゃあ』
一匹の黒猫が、こちらをじいっと見つめていた。
黒い中に光る金色の目。監視するみたいに私を見ていた。
だが、私が見つめ返していると、急に立ち上がって、私に背を向け歩き出す。
「あ、ちょっと……」
待って、と言う前に、その猫は顔だけこちらに向けた。
――ついてこい、って言ってんの?
猫はにやり、と笑ってまた歩き出す。
しばらく動けなかったが、猫がまた振り返るときには諦めた。
――どうせそっちに行くんだし。
落ちかけていたバッグを肩にかけ直して、また歩き出した。
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