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現在、この世には二種類の人間しかいない。 男と女、善と悪、そしてもうひとつ区別すべき、最強で最悪なカテゴリー。 「あ~もう何もかも憂鬱。死にたい……」 「そんなこと言っちゃ駄目だよ! 生きていれば楽しいこともいっぱいあるから元気出して!」 両極端な二つのタイプ。ポジティブな人間とネガティブな人間だ。 『ネガティブな人は年々増加傾向にあります。政府は緊急レベルを引き上げ、早々に解決策を提示すると発表しました』 そんな報道が流れるほど、世界は淀んでいた。 ネガティブな人間がポジティブな人間に与える影響は凄まじく、ひと月一緒にいただけでとても消極的な性格へ変貌してしまう。それはもはや伝染病で、災害レベルと言っても良かった。 もちろんネガティブな人にも程度があり、軽いタイプなら全く問題ない。しかしこれが重度になると日常生活を営むことすら難しく、中には希死念慮を抱く者もいる。 現代のネガティブは病も同然。でもネガティブ手当てなんてものはない。ネガティブ休暇もない。いっそ作ってみたら少しは軽減するかもしれないのに。 「そんなわけないでしょ。ポジティブな人間がネガティブだって嘘ついて、休暇取り放題ですよ。週明けはブルーマンデーなんで休みまーす、って。ネガティブな人間は365日年中無休でネガティブを発揮してるけど」 同僚が、振り返らずともうんざりした顔を浮かべていることが分かった。 ネガティブな人間をサポートする仕事は、例え自分がどんなにポジティブでも疲れてしまう。多少の皮肉を言いたくなるだろう。 ネガティブな人種と真剣に向き合う毎日は非常に疲れる。というか、普通に病む。胃痛が半端じゃないし、朝陽を浴びると天に召された気分になる。日々着実にネガティブな人間へ変貌している気がする……ことを、今度上司に相談しようと思う。 品場慎也(しなばしんや)と記された業務報告書と必要書類を封筒に入れ、街で唯一の郵便局へ届けた。声が小さく決して目を合わそうとしない受付に封筒を託し、暗澹とした空の下に再び踏み出す。 この街はいつも曇っている。その色が反射し、人々の顔にも影を落としている。こちらまで鬱々としてしまいそうだが、モチベーションを下げてはいけない。自分は彼らの心に光を差し込む為にやってきたのだ。
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