21人が本棚に入れています
本棚に追加
大河くんも私も高ニなのだから恋愛の一つでも嗜んでもおかしくない。私は高ニの今に至るまで彼氏がいたことなど皆無だ。多分きっと私の見た目が幼すぎるのが原因だろう。可愛いとは言われるが、それはお人形さんに向けて言う可愛いと変わらないのだ。そんな私を恋愛対象に、それも学校のスターがしてくれるのならば乗らない理由などない。
十月の暮れに彼氏ができるのならばクリスマスは自慢の彼氏とデートと洒落込める。私はウキウキしながらクラスメイトの呆れた視線をよそに放課後、バスケ部の部室へと急いだ。
扉を開けるとモワッと汗臭い匂いが鼻をつく。男の子の匂いだ。その部室にはバスケ部のメンバーが揃っている。
「荒川さん!よく来てくれた!」
最初にそう声をあげたのは、大河くんの親友田中聡くんだ。
部室の奥の椅子に腰掛けていた大河くんの目はキョトンと丸くなっている。
もしかしてイタズラだったか?なんて邪推したが、事情は私にも分かるように聡くんが説明してくれた。
「いやね。大河の奴が荒川さんが気になって仕方ないって、練習中ため息ばかりでさ。だから大河の背中を押すために荒川さんを呼んだんだよ。大河の奴、バスケ以外はからっきしで特に恋愛なんか女の子と話すのも緊張するみたいで……。だからさ、大河を振るなり煮るなり焼くなり、荒川さんが決めていいからさ」
聡くんがそう言うと他のバスケ部メンバーが大河くんの背中を押して私の前に押し出した。
「あ、あの、あ、あの荒川唯さん……」
大河くんは顔を真っ赤にして手をモジモジと合わせる。
「大河、頑張れ!」
聡くんが大河くんの背中をパンッと音が高くなるくらいに響いた。
「俺……、唯さんが好きです!付き合ってくださ……い……」
最後は聞き取れないくらい小さな声だったが、私は差し出された右手を握った。
「私で良かったら!」
バスケ部のメンバーは、ワッと湧き上がる。
「大河良かったな!生まれてはじめての彼女じゃないか!」
大河くんの顔はまだ真っ赤で俯いているが、聡くんがそう叫んだため、ふわりと笑顔を見せた。それは背の小さな私でなければ見逃したかも知れない。
「大河くん、よろしくお願いします」
「俺も……」
その時の私は大河くんのバスケ以外からっきしの意味を履き違えていた。だって学校のスターなのだから、親友の言うからっきしなんて大したことないと思うのが普通だろう。
そのからっきしを私は直後に目の当たりにする。
最初のコメントを投稿しよう!