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「俺は……治したい……」
大河くんは小さな声で呟く。
「俺さ、こんななりしてるけど小学生の頃は誰よりも小さくて内気でさ、いじめられては聡によく助けてもらってた。聡が俺を変わらせるって息巻いて一緒にバスケ部に入ったんだけど、バスケ以外はやっぱり怖くて……。でもでも、いつか……いつかは臆病治すから……」
また、いつかか。私は大河くんの手を離す。そして大河くんの正面を向いて立ち止まる。
「大河くん、気を付け!」
私の声に大河くんの背筋はピンと伸びて棒立ちになる。
全く。
「大河くん。一歩下がって」
大河くんは言われたままに下がる。私と大河くんの間に大河くんの足あとがある。
「大河くん、足のサイズは何センチ?」
「30……」
「うん。やっぱり大きいね」
私は一歩前に進み大河くんの足あとに私の足を入れる。
大河くんはその光景を見ている。
「大河くん、私の足は大河くんの足あとにスッポリ入っちゃうくらい小さいんだ。大河くんが守ってくれなきゃ私は簡単に壊れちゃうくらい小さいんだ。大河くんが臆病を治さなきゃ、誰が私を守ってくれるの?それは臆病じゃない大河くん以外の誰かなの?」
「違う!唯ちゃんを守るのは俺だ!」
珍しく大河くんが大きな声を出した。
「うん。私も大河くんに守って欲しい。だったら臆病を治すのはいつ?いつかなの?」
大河くんは私の目をじっと見つめる。
「今……」
「なら抱き締めて。恋愛に臆病なのは分かるけど大切なら抱き締めて。私、大河くんに抱き締められたこと、まだ一回もないのよ?」
大河くんは、こくんと頷き一歩前に出て、私の背中に両手をまわした。
「臆病は……、今治す……」
大河くんがそう呟いたから、それでいいと思った私は大河くんの顔を見上げると唇に温かいものが当たった。それは大河くんの唇。
しばし放心していると大河くんの顔はそっと離れる。
「唯ちゃんの前で……臆病でいたくないから……」
「バカ。そういうとこからなんだ……」
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