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プロローグ
何気ない日常、笑って過ごす顔は全て偽りで、人が抱える本当の気持ち、悩み、挫折、絶望、悲しみ、その心の真実は誰にも分からない。
あの頃の僕もそうだった――。
― 十年前、藤城優紀 十七歳 ―
『時が止まった……』
それは、馬鹿げた表現なのかも知れない。
でも……、
僕が受け止めた感情は紛れもなくそう表すことしか出来なくて――、
世界中で僕達二人だけが取り残されたように一瞬にして光は消え、暗闇の中僕の腕の中にいる君だけが眩しく輝きを放つ。
心の奥から溢れ出る程に、とてもあたたかく優しい温もり――、
柔らかな君の髪に揺れるたびに甘い香りが漂い、僕を現実の世界に呼び戻すと、時は再び動き始めたかの様な錯覚に陥る。
君の吐息を耳に感じる程に、さらに増す鼓動の速さと共にドクドクと下腹部から滴り流れ落ちる違和感。
この時僕は、初めて抱く感情に戸惑いを覚えながらも、無意識に君を強く抱きしめていた。
『ゆ、ゆっ……』
「君を守りたい――」
『えっ……』
やがて絡まる糸が解けるようにゆっくりと離れゆく二つの影、その姿を真っ赤な赤色灯の灯りが包み込む。
「ウウウゥ――――ゥッ、
ウウウゥ――――ゥッ!」
バタバタと慌ただしく周囲を取り囲む無数の黒い影。
「あぁぁああ!! ち、ちっ、違う、俺じゃない!」
「容疑者確保! 至急救急車手配!!」
閉じゆく瞼に残る君の残像は、とても悲しそうで瞳は濡れていた。
『また、泣かせちゃったね。
それに、何だか周囲が騒がし……、
……、
……、
俺、死にたくない――』
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