序章

3/7
前へ
/70ページ
次へ
 背後で誰かが囁いた。  飛び退こうと地面を蹴るが、足をなにかにつかまれ地面に倒れ込んだ。  ぐいっと顎を掴まれ、顔を無理矢理上げさせられる。  抵抗しようとしたが、何かに押さえられていてできなかった。 「それにしても、この(ツラ)が殺人鬼だなんてな」  相手の顔はよく見えない。なぜか、黒いモヤが掛かっているように見える。  だが、真っ黒の長い髪と紅い袴は見えた。 「はなせよ。あんたも殺されたいのか」 「ん? ああ、すまない。久々にヒトの方から来たから、何事かと思ったんだよ」  俺が声を低めながら言うと、顎の手が離れていく。  それと同時に、腕を押さえつけていたものがスルスルと消えていった。  振り返るとそれは———鎖。    「っ……!」 「おっと。逃がさないぞ」  とっさに立ち上がろうとした俺の首に、わずかに反った剣を突きつけられる。  俺は、肝が冷えた。  剣のことではない。  正面で俺を囲うように動く、鎖。何本も、何十本もある。   「さてと。時間はたっぷりあるはずだ。何してやろうかなぁ〜」  背後で笑う声がする。  俺は、本当に悪魔の棲に入ってしまったかもしれない。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加