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チャンス
「もう一度俺にチャンスがほしいんだ。あの頃はちゃんとできなかったから」
「チャンスって…俺とどうなりたいんだよ」
「側にいて欲しい。もう俺から逃げないで」
「別に…逃げたわけじゃないよ」
逃げたっていうのは適切じゃない。
俺はただゆずを放っといたのだ。
してしまった後でゆずはずっと嬉しそうだった。
「ごめんね、びっくりさせちゃったよね。でもすごく気持ち良かったよ。たー君はどうだった?」
「まぁまぁかな」
抜き合いっこは良かったけれど、その後は変な感じだった。
ゆずのはまだ成長途中の俺の体には大きかったし。
「回数を重ねれば大丈夫だよ。どんどん良くなっていける」
「またやるの?」
「うん。今更ずるいけど本当はずっとたー君としたかったんだ」
そのゆずの告白は俺へ響いて来なかった。
あんな痛くて苦しいことをまた繰り返さなきゃならないのか。
そのことの方が俺を億劫な気持ちにさせる。
女の子となら最初から最後まで気持ち良いままだ。
ならそっちの方が良いに決まってる。
ゆずの本来の悩みのゲイかどうかっていうのも今日で結論が出た。
ゆずはゲイだ。
それならそれで彼ならそのうち良い相手もできるだろう。
だからゆずから電話が掛かってきても適当に忙しいフリをしたし、家に来られたらわざと家族のいる所で接した。
そうしていればゆずの俺の体への興味は薄れてくるはずだ。
そのすぐ後に不幸が立て続いてゆずの家も俺の家も大変で、結果会う事はなくなった。
「今彼女がいるの?」
「うん」
「それでもいいよ」
「セフレってこと?」
「そう。たー君と関われるだけマシだ」
「どうしてそんなに…」
「俺にとってたー君は特別なんだ」
「従兄弟だぞ?」
「男の俺たちには関係ないよ。それにもうしてしまってるんだから1回も100回も変わらない」
「変わるだろ」
「変わらないよ」
ゆずはこんなに頑固だっただろうか?
一歩も譲る気がない様子だ。
カランと音が鳴ってカップルの客が来た。
ゆずはそれでも俺の返事を待っている様だったので「考えとく」と言うと、「そうしてほしい」とニコッて笑顔を見せた。
狭い店内でこれ以上こんな話はできないのをゆずもわかってくれた様で「連絡するね」と言って帰っていった。
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