土曜日の朝

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土曜日の朝

 まだお客さんはいなかったから僕が1人で店に出ていた。 店長は多分バックヤードで何か作業している。 ドアのカランて音が聞こえた。 「いらっしゃい…ませ…?」 店長がなんで外から?って奥にいるのを知っていても思わず思うくらい瓜二つの人だった。 纏う雰囲気は違う。 もしかして双子? 「店長のご家族ですか?」 「たー君いる?」 「はい、今呼びますね」 僕は奥へ行って「店長そっくりな人が来てます」って呼んだ。 「ゆず…?ここに来るの珍しいな」 「たまには仕事してるたー君も見たくなったんだ。それより外の黒板落書きされてたから見てきた方がいいよ」 「本当に?朝から悪いことする奴いるんだな」 僕にその人へコーヒー出しておく様に言って、店長は外へ行ってしまった。 その人はカウンターへ座る。 僕も水を出した後カウンター内で準備をした。 初めてお客さんの前でコーヒーを淹れた時より緊張した。 じっくり眺められてるのがわかるから。 店長同様のかっこいい人に見られてるからと言えばそうだし。 不気味な居心地悪さを感じた。 妙に気になった『たー君』て呼び方を何度も頭の中でくり返して誤魔化す。 コーヒーを出してからも感じる…すごくしつこい視線だ。 我慢できなくて僕の方から「店長のご兄弟なんですか?」と声をかけた。 双子かとも思ったけれど、近くで見たらこの人の方が少し年上な気がした。 「従兄弟だよ」 「従兄弟?すごく似ているんですね」 「ふふ、たー君の方が身体に黒子が多いんだ」 身体?黒子? 噛み合ってる様で微妙に噛み合っていない。 僕の似ているって言葉は顔や背格好の話で、目に見えない所のことまで意味していない。 ああ、でも確かに顔にも黒子あったかも… その人が観察する様に僕の表情を見ていることに気がついた。 まさかわざと…? 考え過ぎか。 そこまで変な返しでもないし。 「そうなんですね。僕にも従兄弟はいますけど僕とは全く似ていないので驚きました」 「たー君とのデートは楽しかった?」 いきなり何…? なんでそれ知ってるんだ? 「…デートじゃ…ありませんよ」 「デートでしょ?たー君のことが好きなんでしょ?」 …この人変だ。 逃げた方が良いって僕の本能が警鐘を鳴らす。 店長が外にいるから奥に引っ込むわけにはいかないし…。 「たー君はこんな子供にも好かれちゃうんだね。俺も困ってるよ」 「…どうしてあなたが困るんですか?」 咄嗟に出た反撃だった。 お客さんとか考えないで反抗心のまま言った。 子供だってバカにされてカチンときたから。 「気が強いね。君もたー君と付き合いたいの?男同士のセックスへの興味?」 「…あなたに関係ありません」 「関係あるよ。たー君は俺の特別なんだから」
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