44人が本棚に入れています
本棚に追加
異常な人
カラン。
「ちょっと消されてるだけだったからすぐ直せてよかったよ。ゆず教えてくれてありがと」
「役に立てて嬉しいよ。彼体調悪そうに見えるけど大丈夫かな?」
店長は慌てて駆け寄ってきた。
「本当だ。青白い顔してる。遥大丈夫か?」
店長は心底心配そうに僕の背中を摩ってくれた。
その様子も目の前の男は見物している。
僕はわざと店長の手を取った。
「僕血圧低いから貧血かもしれません。奥で10分くらい休んでもいいですか?」
「俺1人でもまわせるから今日は帰ったらどうだ?」
「帰りたくありません。すぐ元気になりますから」
店長の手をギュッと握る。
「しばらく休んでていいよ」って言って、店長は僕に片手を握られたまま肩を支える様に抱いて奥へ連れて行ってくれた。
僕は低血圧じゃない。
あの男のせいで気分が悪くなっただけだ。
なぜわざわざあいつに店長との触れ合いを見せつけたかって。
さっきの一連の流れで僕はあの従兄弟が店長へ好意を持っているのを察した。
あいつ店長がバイだからって自分もいけると思ってるのか?
従兄弟であんなに似てるのに?
自分の顔でも見て我慢しろよ。
多分あいつ異常だ。
親戚でも店長はあんなのとは距離を置いた方がいい。
一度戻ってから店長がまたお店で出すケーキとリンゴジュースを持ってきてくれた。
「俺低血圧じゃないからわからないんだけど、これ食べられる?糖分取った方がいいかと思って持ってきてみたんだ」
「頂きます。後でお金払いますね」
「何バカ言ってるんだよ。金なんていらないから自分の体のことだけ考えろ」
店長最高。
優し過ぎて目頭がジワってきた。
がんばってそれを引っ込めて「これ食べたらすぐ元気になれます」って微笑んだら頭を撫でてくれた。
僕が戻った時にはもう店長の従兄弟はいなかった。
あの人は譲さんというらしい。
「すごく親しそうでしたね。よく会うんですか?」
「うん…週2は会うかな。お互い独身だし良い遊び相手なんだ」
けっこう会ってるんだ。
店長は譲さんの好意に気がついてないんだろうか。
譲さんについてどこまで聞いてもいいだろう。
譲さんは僕が店長に気があるのを確認しに来た。
もしくは確信していて警告しに来たって感じだった。
そもそもそれも初めて会うのにどうしてわかったのか不思議だ。
僕も準備が必要だと思った。
丸腰では負けてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!