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奈々
その日の夜にはゆずから連絡が来た。
久しぶりに俺に会えた喜びだったりとか、次に会えるのを心待ちににしているといった内容だ。
「誰とラインしてるのー?」
「従兄弟。今日カフェに会いにきたんだ。ほら」
特に変な内容ではなかったから画面を彼女に見せた。
「辰巳の従兄弟見てみたい。写真とかないの?」
「ないけど俺が真面目で大人になった感じ。顔似てるから」
「えーもっと見てみたくなったー!しかも従兄弟めっちゃ辰巳に会いたがってるじゃん」
「うん、7年会ってなかったし。昔から仲良かった」
「ちゃんと会ってあげなよー。あと次は絶対写真撮ってよね」
「よし」と化粧を終えて、彼女は仕事には必ず来ていくブランドのコートを羽織った。
「んじゃ、自宅警備よろしくー」
「任しとけ」
俺がカフェから上がって家に帰って少しすると、入れ替わりの様に彼女は出勤していく。
浮き沈みの激しい元カノに浮気を疑われて追い出された時、今の彼女の奈々が俺を拾ってくれた。
奈々は俺にあれこれ望んでこなくて気楽だ。
たまに体を満たしてあげられたら、自由と温かい寝床を与えられる。
不安定な俺の生活の中で今は安定していた。
夜の仕事をする彼女に悪い印象を持つ人間もいるかもしれないが、俺にとって彼女は過去の女達の中で最も大らかな女性だ。
『今度はいつ会える?』
いくらそんな奈々でも過去に体の関係を持った相手と聞けばどう思うだろう。
もちろんそんなこと言わないけれど。
ゆずの俺への好意はやはり従兄弟を超えたものの様だし。
かと言って俺はゆずを突き放すのには気が引けた。
この数年の彼の苦労を想像すると俺なんかが彼を無下にしちゃいけないと思う。
取り敢えず一度食事でもして話しようと提案することにした。
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