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引っ越し
「店長何見てるんですか?」
「んー?賃貸情報」
店を閉めてもう帰る準備をした遥が俺が見てるノートパソコンを覗き込んできた。
告白をされたけれど、遥はこれまで通り働いてくれた。
まるで何もなかったかの様だ。
…本当は背中に遥の視線を感じることはたまにある。
俺は気付かないフリをする。
例え遥がゲイでも高校生の彼にはもっと良い相手がいるはずだ。
「引っ越しするんです?」
「うん。一人暮らししてみよっかなって」
「今まで実家だったんですね」
「ううん。ほとんど彼女の家に転がり込んでた。友達とかカプセルホテルとかもたまにあったけど」
ここ数年は彼女半分、ゆずの家が半分だ。
それはなんだか遥には言えない。
「店長ってかなりダメ男ですよね」
「やっと俺のことわかってきたんだな」
「開き直らないで下さいよ!良い歳こいて!!」
「すみませんでした」
遥は仲良くなってみたらズバズバ物を言うタイプなんだなってのがわかったけど、最近はよく叱られている気がする。
実際俺なんかよりしっかりしてるんだよな。
もう遥なら1人でも十分店をまわせるだろう。
お客さんとの会話も慣れてきた様だし。
ただ遥との何気ない会話や叱咤は心が穏やかになった。
遥の気持ちを無視してるくせに一緒に過ごしたいだなんて。
やっぱり俺は底無しに最低だ。
「そんなんだからつけ込まれるんですよ!」
「別に彼女につけ込まれたなんて思ってないよ。考えたら俺の方が申し訳ないことたくさんしてた」
「…彼女じゃなくて…」
彼女じゃないならゆずのことか?
遥は俺たちの関係を相当嫌っているから。
「今は1人になってみたいんだ。ちゃんと好きだと思えたら付き合える様に」
これも遥に言うのは無神経だったかな。
遥は少し険しい面持ちで何か言いたそうだったけど、ため息をついた。
「彼女だけじゃなくて、譲さんにも頼っちゃダメですよ」
「わかってるよ」
実は彼女とは2ヶ月前に別れていた。
ゆずの俺は誰も愛していないって言葉が効いた。
奈々のことすら愛せてたのか徐々に自信がなくなってきている。
大雑把で大らかな所は確かに神経質でヒステリックな母さんと正反対だ。
それだけで俺は奈々のことをちゃんと知ろうとせず妄信していたと言われればその通りにも思えた。
彼女の所に置いてあった荷物と共に今はゆずのとこに居させてもらっている。
そのことももちろん遥には言えない。
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