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ゆず
店の閉め作業をする。
普通はバイトなら最低2人でやるんだけど、俺はここが長いから暇な日なら1人で店に立つし、閉め作業もそのままやってしまう。
全部終えて外に出るとコートを来たゆずがドアの外で立っていた。
「たー君お疲れ様」
「ゆず?寒いだろ。拾いやすいとこに俺が行くって言ったのに」
「待ちきれなかったんだ。早く顔が見たかった」
俺の頬に触れるゆずの手が冷たい。
「早く何処か入ろう。ゆずに風邪引かせられないよ」
「ふふ、ありがと」
それから俺たちは車に乗った。
ゆずにどんな店がいいと聞かれたから「酒と魚が美味い店」と適当に言ったら「わかった」と車を進める。
連れて来てくれたのは広くないが高級感のある居酒屋だった。
看板が大きく出てるわけじゃなく隠れ家的な作りだ。
メニューを見たら確かに刺身が多い。
値段もなかなかだ。
「お酒もここは珍しいのが多いんだよ。ほら、これとか」
「うわ、本当だ。この日本酒どこも置いてないんだよ」
「じゃあそれにしたら?俺は飲めないからお茶で乾杯なんだけど」
「飲めないの?運転だから?」
「いや、体に合わないんだ。お酒飲める様になる前に引っ越したから知らなかったよね」
「ああ…大変だっただろ?お父さん元気?」
「きっと元気なんじゃないかな。あまり連絡してない」
「そうなんだ…」
「重い空気になっちゃうよ。やめよう。たー君はその日本酒ね」
「いや…俺もお茶で」
「俺に気なんか使わないで」
「実はこんな良い店に来ると思って無かったからあんまり持ってきてないんだ」
「何言ってるの?俺の奢りに決まってるだろ。じゃあ勝手にいろいろ頼んどくね」
ゆずは店員さんを呼んでさくさくと刺身の盛り合わせやら頼んでいく。
ごく慣れた様子でかっこいい。
子供の頃はすごく内気だったのに。
「ゆずモテそう」
「そう?」
「うん。実際モテるだろ?」
「さぁ、俺はたー君にモテたいんだけど」
「こんな狭い所で変な事言うなって」
「たー君は昔からモテるよね」
「あーでもあんまり長続きしたことないかも。最長で1年くらいかな」
「その長かった子は何がよかったの?」
「何って…なんだろ?」
話してるうちに飲み物とお通しが来た。
乾杯して飲んだその酒は最高に美味くて喜んでるとゆずがそれを見てニコニコしてる。
「どんどん飲んでね」
「なんか悪いな」
「たー君が美味しそうにしてるのを見られるなら毎回来てもいいよ」
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