誘惑

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誘惑

「何も難しく考える必要はないよ。してみて嫌なら考えればいいし、良ければこれからも続けていけばいい」 「続けていけばって、爺ちゃんとかになるまでやってこうって気でいるのか?」 「ふ…はは、いいね。そうできたら最高だな。でも今大事なのはたー君が俺を気に入ってくれるかどうかだからそれは行き過ぎだよ」 俺の質問がツボにはまった様で「爺ちゃんか」ってゆずは1人で笑っていた。 「笑い過ぎ」 「ごめん。ずいぶん悩ませちゃったんだなって」 「……」 「男同士っていうのはさ、意外とあっさりしたものなんだよ。俺は女を知らないけどね。 定期的に性欲を発散させたい。でもその相手の外見や体の相性にはこだわりがあるんだ。 だから誰でもいいってわけでもない。 俺は他の人とも試してみて、たー君が1番だってはっきりわかったんだよ」 「つまり性欲処理に付き合えってこと?」 「そう思う方が気楽ならそう考えてくれていいよ」 性欲処理なら相手してもいいかなって気になった。 男としてその表現は共感しやすい。 それならセフレとして関係も成立する。 「まだずっと続けてくって決めたわけじゃないからな」 「いいんだね?」 「俺が好きなのは彼女だから」 「わかってるよ」 ゆずが手に持っていたペットボトルをテーブルへ置いた。 「交渉成立したことだしお祝いにキスさせてよ」 「ゆずって結構ぐいぐい来る方なんだな」 「もたもたしてたー君の気が変わったら嫌だからね」 ビール缶から口を離した隙にゆずは口を合わせてきた。 お祝いっていうからソフトなキスかと思ったら、ビールで潤った俺の口にゆずの舌が最初から入ってくる。 キスしながら持っていた缶を奪われてそれもテーブルに置かれた。 ねっとりと口を堪能されてゆずが俺へ体重をかけてくる。 倒れそうでゆずの腕に掴まった。 ゆずはこんなキスをするんだ。 思えば前回はキスなんてしなかった。 俺が彼女へするキスよりも濃厚な気がする。 「ビールの味だね」 「…知ってるんだ」 「試したことくらいあるよ」 俺を見下ろすゆずの目に欲の色が浮かぶ。 ああ、俺はこいつに抱かれるんだってその目を見ていると実感する。 嬉しくも悲しくもない。 ただその現実を俺はもう受け入れ初めていた。 「続きはベッドでしよう」 ゆずに誘導されるままに俺は彼について行った。
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