43人が本棚に入れています
本棚に追加
誘惑
「何も難しく考える必要はないよ。してみて嫌なら考えればいいし、良ければこれからも続けていけばいい」
「続けていけばって、爺ちゃんとかになるまでやってこうって気でいるのか?」
「ふ…はは、いいね。そうできたら最高だな。でも今大事なのはたー君が俺を気に入ってくれるかどうかだからそれは行き過ぎだよ」
俺の質問がツボにはまった様で「爺ちゃんか」ってゆずは1人で笑っていた。
「笑い過ぎ」
「ごめん。ずいぶん悩ませちゃったんだなって」
「……」
「男同士っていうのはさ、意外とあっさりしたものなんだよ。俺は女を知らないけどね。
定期的に性欲を発散させたい。でもその相手の外見や体の相性にはこだわりがあるんだ。
だから誰でもいいってわけでもない。
俺は他の人とも試してみて、たー君が1番だってはっきりわかったんだよ」
「つまり性欲処理に付き合えってこと?」
「そう思う方が気楽ならそう考えてくれていいよ」
性欲処理なら相手してもいいかなって気になった。
男としてその表現は共感しやすい。
それならセフレとして関係も成立する。
「まだずっと続けてくって決めたわけじゃないからな」
「いいんだね?」
「俺が好きなのは彼女だから」
「わかってるよ」
ゆずが手に持っていたペットボトルをテーブルへ置いた。
「交渉成立したことだしお祝いにキスさせてよ」
「ゆずって結構ぐいぐい来る方なんだな」
「もたもたしてたー君の気が変わったら嫌だからね」
ビール缶から口を離した隙にゆずは口を合わせてきた。
お祝いっていうからソフトなキスかと思ったら、ビールで潤った俺の口にゆずの舌が最初から入ってくる。
キスしながら持っていた缶を奪われてそれもテーブルに置かれた。
ねっとりと口を堪能されてゆずが俺へ体重をかけてくる。
倒れそうでゆずの腕に掴まった。
ゆずはこんなキスをするんだ。
思えば前回はキスなんてしなかった。
俺が彼女へするキスよりも濃厚な気がする。
「ビールの味だね」
「…知ってるんだ」
「試したことくらいあるよ」
俺を見下ろすゆずの目に欲の色が浮かぶ。
ああ、俺はこいつに抱かれるんだってその目を見ていると実感する。
嬉しくも悲しくもない。
ただその現実を俺はもう受け入れ初めていた。
「続きはベッドでしよう」
ゆずに誘導されるままに俺は彼について行った。
最初のコメントを投稿しよう!