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繋ぐ手の温度
まさか、自分がこんなに小心者だったなんて驚いただけじゃなくて情けなかった。佳乃の手を握ったまま、仁王立ちをしているといえば聞こえはいいが、足を踏み締めていないと震えが伝わりそうだった。
目の前には、多賀谷先生がいる。
医者は特権階級の職業だ。病院の中でも外でも、医師だと言えば周りは一目置くのが世の常だ。
でも、冗談じゃない。
どんなに大切にしても慎重に気持ちを伝えても、俺に全てを預けようとしない佳乃にお手上げ状態だった。嫌われてるとは思えないのに、胸の中までは来てくれるのに、抱きしめても俺を抱きしめてはくれない。
スキンシップがそれほど好きじゃないのかと思ったり、極度の恥ずかしがり屋なのかと考えてみたり、かなり悶々と悩んでいたのに。
それが先生のせいだったのか。
どこから出てきんだよ。いつから佳乃にちょっかい出してたんだよ。見た目がいいのか頭がいいのか知らないが、ふざけるな。
「ここでは立場を抜きにして話しをさせていただいてもいいですか」
いつもより、声を低くしてそう言った。
佳乃の手は離さない。それでも、たぶん体の震えはバレなかった。
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