懐かしい色

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 あの夢のお陰で目覚ましのお世話にならずに家を出られて、いつもより早く着いた更衣室には、数人の職員がいただけだった。ユニフォームに着替えて廊下に出ると、後ろから足音の近づく気配がする。 「坂井ちゃん、おっはよう」  …朝から、(つか)まった。 「…おはようございます」  声の主は、神経内科の高島先生(ドクター)。  一応、振り返って返事をする。  彼は自分より若い女性職員に、ハジから声をかけてくるので有名だった。…セクハラ、一歩手前。 「今度さあ、昔、指導した後輩が入って来たんだよね。もう新しい医者達、チェックした?」  チェック、って。みんな、あなたと同じじゃないよ。 「…いえ、私なんかが、おこがましいですから」 「またぁ。坂井ちゃん、リハビリ室の一番人気じゃん」  どこか(・・・)の店じゃないんだから、そういう目で見るのは、いい加減にしてほしいのに。 「俺が仕切って、仲間内で歓迎会しようと思ってるから、坂井ちゃんも来てよ」 「あの、私はそんな先生方のところに、お邪魔するわけにはいきませんので。それに、まだ大人数の歓迎会は自粛したほうが…」 「大丈夫、少人数でぱぱっとやるから。しかも、屋外に席がある店だからさ」  病院は通常になったとは言え、感染症対策は慎重にしなければならない。    私は、返事はしないでお辞儀をしてから、先生に背を向けて朝の準備の為に急いでその場を離れた。  
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