懐かしい色

3/10
前へ
/63ページ
次へ
 リハビリテーション室は、ちょっとした体育館くらいの広さがある。  緑の多い庭に面したここは、病院の一角だということを忘れてしまうような解放感と、爽やかな空気に包まれていた。  窓を開けてからモップをかけて、治療台の上をアルコールスプレーで消毒する。これが”若手”の私たちの、朝の仕事だ。 「佳乃、さっき高島先生に捕まってたでしょ」 「え?見てたの?」  同期の小百合ちゃんが、こそっと話しかけてきた。彼女も、ここに来て7年になる作業療法士(OT)。 「助けてくれればよかったのに」 「お邪魔したら、悪いかと思って」  悪いとは思っていない笑顔で、ペロッと舌を出してからモップを片付けている。  私より背が高くてショートカットの彼女は、性格もさっぱりしっかりしている。 「朝から、ついてない、今日」  私は、手を洗いながらブルーな空気を漂わせていた。とにかく、苦手なタイプどストライク、高島先生は。でも、医者にあからさまにそうは言えない。 「坂井さん、今日の脳外カンファ」  もう一人の同期の石井ちゃんが、パソコンの電源を入れながら声をかけてきた。 「うん、3時だよね」 「それがね、新しく来たDrが、早速手術(オペ)のあるから、4時からにしてくれって朝一で電話があったみたい。科長が言ってた」  確かに、スタッフルームのホワイトボードの予定欄にある"脳カンファ”の横に赤で、大きく16時と書いてある。  ったく。こっちだって、スケジュールがあるのに。 「…午後の予定、組み直しか…」  仕方なく患者さんの予定表を睨んで、4時からの再調整を考えた。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加