繋ぐ手の温度

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「…カフェでは、すみませんでした」  俺が、何から話をすればいいのかわからないくらい熱くなっていた頭の中を整理していると、多賀谷先生が静かにそう言った。 「あの、…多賀谷先生が悪いんじゃないです」  俺の隣に座った佳乃が、俯いたままつぶやく。繋いだままにしてくれている彼女の手の温かさが、少しずつ気持ちを落ち着かせてくれた。 「僕も、その、失礼な雰囲気にしてしまって」    多賀谷先生の素顔をじっくり見るのは、初めてだ。噂通り確かに、顔の全てのパーツが恐ろしく整っている。男から見ても、惚れ惚れする。 「僕はずっと坂井さんのことを、探していたんです。坂井さんに会うために、この病院に来ました」  佳乃が驚いたように顔を上げた。  探してた?  病院に来てから、手を出したんじゃないのか? 「どういうことですか。SNSとかで佳乃を見つけたとか?」    そうなら、ヤバい奴だろ。ストーカー? 「…脩さん、多賀谷先生は、私の中学校のクラスメイトの従兄弟なんだって」 「クラス、メイト?」  佳乃は、自分が言わなければ、というように落ち着いた口調で言った。 「中学の頃の…初恋の人、の」  中学生の頃の、初恋。…子供の頃の話じゃないか。  この、空気の重さで?  …単なる子供の頃の話じゃないのは、疑いようがなかった。
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