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「領収証の整理をお願いできますか」
そう言って手渡されたレジ袋にはぐちゃぐちゃに入れられた領収書が入っていた。
ズボンのポケットに無造作に入れたのかくしゃくしゃにまるめられたものもあり、とりあえずは綺麗に伸ばして月ごとに分けていく作業から始めた。
「前の事務の方っていつ頃退職されたんですか?」
「あははは、領収証ためすぎだよね。半年くらいかな、悪いね」
「それが仕事なんですから大丈夫ですよ。それに、こんな風にまた仕事できることが嬉しいんです」
「ところで、片桐さんは旦那さんと離婚の方向で考えているってことでいいのかな?」
「はい」
「今週の金曜日も会うのかどうかは分らないが、相手の女性の素性とか決定的なネタを仕入れるために片桐さんに頑張ってもらうことになるから」
「頑張る?」
「探偵事務所ってことで調査の手助けもしてもらうことになるけど、練習に丁度よかった」
「丁度よかったって?」
「探偵事務所と言っても、主な依頼は浮気調査か恋人の身辺調査だから、片桐さんの場合は身をもって研修できるというか・・・・まぁ・・ちょっと辛いかもだが」
「いえ、むしろ安く調査をしてもらえるし、これからどうすればいいのかも教えてもらえるのは助かります」
「まぁ、多分もっとキツいことが出てくると思うけど、今はクライアントとしてではなく俺の相棒として支えてやるからさ、弱音はいくらはいてもいいよ。ただし、伝票関係の弱音は却下だけど」
松崎の笑い方は柔らかい。
賢也も前はこんな感じに笑っていたのに、今はなにか無理をしているように感じてしまう。
それはそうだろうな、あの人が微笑むのはあの写真の女性・・・
「大丈夫です、人間相手よりも伝票の方が楽ですから」
「違いない、じゃあ、俺は出かけるから留守番よろしく。3時になったら勝手に帰宅していいから」
松崎を見送ると、大量の伝票の仕分けを始めた。
初めてこの事務所に来たときはヒマそうだなと思ったが、意外に電話での問い合わせがある。
マニュアル通りの説明をして、料金に納得した場合のみ松崎から直接折り返しをすると伝える。
気がつくともう3時だ、あっという間に一日目の仕事が終わった。
松崎は帰ってこなかったが、鍵を預かっているので簡単に部屋を片付けてから事務所を出た。
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