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初めて会った日の事は、よく覚えている。
「お父さん、その人、もうすぐ来るの?」
「ああ、来るよ」
私の家から歩いて十五分程の距離にある緑豊かなこの公園は、市民の憩いの場になっており、我が家も弟の日向が生まれてからは、休みの日によく遊びに来る場所だった。
父と、母と、弟の日向、そして私、碧。
絵に描いたような仲の良い家族の、休日のピクニック。
「ママ、お腹空いた。おにぎり食べよ」
「そうね、そろそろお昼か。でもちょっと待って、今日は待合せをしてて……あっ!」
四歳になったばかりの日向は、とにかく目が離せない。繋いでいた母の手を振り切り、遊具のある広場の方へ駆け出してしまう。
慌てて追いかける母とその先を走る弟を「あーあーー」と笑いながら、父と私は遠くから見守っていた。
あっ、ほら転んだ。芝生の上だからそんなに痛くないかな……あたた、泣いちゃった。
──今日は、いつもとは違う目的でここに来ている。
いつもと同じようでいつもとは違う。
父と母の間に微かに漂う緊張感の理由を、私は知っていた。すこし前に、事情を聞いたばかりだから。
「ねぇ、お父さん」
「なに?」
「私ちゃんと、面倒見てあげられるかな」
「そんなこと考えなくていいよ。碧はいつも通りでいい」
「だってお父さんの本当の息子君でしょ?」
「うん、そうだね。碧のお母さんと結婚する前に結婚していた人の子どもだからな」
「そうだよね……いいな、本当の息子って。日向もだけど」
「碧だって本当の娘だよ」
〝本当の〟ってなんだろう。
同じ遺伝子を持っているか否か、そういうことだろうか。
それでいうなら私はこのお父さんの、本当の娘ではない。
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