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「朝帰り」
「……そんなこと言われても、盛り上がって飲み過ぎることだってあるし」
「首、痕ついてるぞ」
え?
咄嗟に、左手で首を覆った。
嘘でしょ透さん、そんなのこれまで一度もしたことなかったのに。最後だから?
やだ、鏡を見にいかなければ。
公ちゃんには、絶対に見られたくない。
「ばーか、嘘だよ」
「は?」
うわ、カマかけた。
丈は涼しい顔をして、長い足を組替える。
見え透いたウソを吐くなよと、言われなくてもそう言われたのがわかった。
「急に何? 丈には関係ないと思いますが」
「まあ、そうだな」
「むかつく、きらい」
「子どもかよ」
なんの話もしていないのに、私の心の中を見透かしたような顔をする時がある。
実際にお見通しなのかもしれないけれど。
「彼氏がいるなら連れて来い。俺らに会わせられない相手なら、今すぐやめろ」
「俺らって、公ちゃんと丈?」
「そう」
「なぜ君たちに紹介しなけりゃいかんの」
「いるのか?」
「いないし、後ろ指差されるような相手との付き合いは絶対にないから」
「……あ、そ」
道ならぬ恋に溺れるなど、私にはありえない。自分の気持ちをコントロールすることだけは得意なもので。知らないと思うけど。
「溜息吐かないでよ、心配ご無用ですから。それにもうこういう事はないと思うし」
「そういう事って何、泊まり?」
「そう、泊まり!……別れてきましたから、今朝」
「……」
嘘だとバレバレなのに誤魔化すのも恥ずかしくなり、開き直った。
「結婚相手を探したいって。私ではダメ」
「結婚て……どういう事? 意味がわからないんだけど。相手はおまえではダメなのか? そいつちゃんとした奴なんだろ? つき合ってたんだろ?」
「私がしたくないから。結婚なんて全然」
「……それは、そうでも」
「価値観は人それぞれだから、どう生きようが自由だから、仕方ない。あ、コーヒー入ったみたい、あとは自分でして。じゃ!」
「おい」
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