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リビングに戻ると、丈が庭の方を見据えて立っていた。デジタルの一眼レフカメラを構え、シャッターを切っている。
縁側にあるサンダルを履き、そのまま庭へ出て行ってしまった。
先程までの追及されたくない話は流されたようで、少しホッとする。
丈は料理人だが昔からカメラ小僧で、常にカメラを持ち歩いている。思いついたように突如始まる撮影会はいつものことだ。
見た目はスラリと背が高く、細身だが筋肉質な体躯のため、いかにもスポーツをやってきた人のように思われるが、全く体育会系ではない。高校では写真部に所属していた。
公ちゃんと丈と私は、同時期に同じ高校に通っていたことがあるので知っている。
二歳違いなので、一年しか重ならなかったが、三年の斎木 丈太郎先輩といえば有名で、格好いい先輩グループの代表格だった。
キラキラしている丈を見ると、なんとなく違和感があり気恥ずかしくて、校内ですれ違っても他人のふりをしていた。
ちなみに公ちゃんは、成績が良くて賢い、真面目グループに属していた。
丈がモテるのは何となくわかるが、公ちゃんだって格好いいのに……と、その頃はまだ、〝ちょっと度が過ぎたブラコン〟という括りだった。
「──ほら、今撮ってきたやつ」
「え……うわ、これうちの庭? すごいね、綺麗、薔薇が……上手だねぇ、やっぱり」
モニターの枠の中には、美しい庭の光景、季節の花などが物語のように収まっている。
これは詐欺だ、うちの庭じゃないみたい。
「まあでも、お父さんが一生懸命手入れしているんだから、〝美しい庭〟でいいのか」
「いかにも造り上げたって感じがしなくて、自然でいいよな、八重嶋家の庭園は」
うん、本当に。眺めていると落ち着く。
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