5.甘い手

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「碧が可愛かったからかな」 「……答えになってない。それに可愛いとか言ったことないじゃない、恥ずかしすぎる。丈から言われるのは慣れないよ」  丈はこの上なく楽しそうに、へらへらしている。   「私とつき合って何をするの?」 「中学生みたいな質問だな。まあそうだな、用もないのに会ったり連絡を取り合ったり、一緒に飯食って寝てキスしてやることやっていちゃいちゃして」  そういうことが聞きたいわけではなく! でもやっぱりそうね、いちゃいちゃも全て込々なわけよね。一晩限り、ではなく。 「セ、セフレ」 「いや、違うから。碧が嫌ならもう、指一本()れない」 「……」 「つき合ってる、間はもちろん碧だけ」  その言い方は、なんだかずるい。  それにイヤではない、全然イヤではなく、むしろ……それが自分でも理解できない。 「イヤじゃない、丈に(さわ)られるのは」 「…………おいで」  言われるがまま丈との距離を詰めると、ベッドに寝転んだ状態で引き寄せられ、抱きしめられた体勢になった。私の額に丈の顎。 昨夜慣れてしまった、丈の匂いがする。 「困ったな」 「なにが?」 「……いや、何でもない。碧の好きなようにしてくれていい。どうしたい?」  どうしたいって…………あ。 「丈と一緒に食事がしたい」 「結局それか」 「だって丈と食べると美味しいものにありつけるんだもん。さっき食べた定食もすっごく美味しかった」  ここに来る途中、丈行きつけの渋い定食屋さんに寄って、魚の煮付けと揚げ出し豆腐がメインの定食をいただいた。昨日の夕飯をすっ飛ばしたことを思い出して、見た瞬間にお腹が鳴った。美味しすぎて箸が止まらず、丈も嬉しそうだった。 丈が美味しいと気に入っているものは、例外なく私もすごく美味しい。 「食はライフワークだからな」 「でも本当は丈が作ったごはんが一番好き」
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