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丈は眉間に皺を寄せて、ウンともスンとも言わなくなる。褒めているのに。
「なんか怒ってる?」
「怒ってませーん、そんなのいつでも作ってやる。あとは?」
なんだ、照れてたのか、分かりにく。
……あとは、何がしたいかな、何だろう。
あ、
「旅行に行きたい」
「旅行?」
「どこに行きたいって訳じゃないんだけど」
「時々あちこちに出掛けてるよな?」
「ああ、それは一人旅ね、あとは父と母との家族旅行とか」
「二人旅はあまりなかったのか」
「……ああうん、まあ」
あまりどころか一度もない、そういう恋人同士で行く二人旅のようなものは。いつも、ここに公ちゃんと来れたらと夢を見た。
だからって、丈と二人だけで旅行するのもおかしいのか。
「やめやめ、やっぱ今のなし」
「いいよ行こう、旅行な、温泉宿でしっぽり美味いもの食べて飲んで、って感じ?」
「そう、それそれ。一人で行ってもいいんだけど、一人じゃ泊れない宿もあるんだよ」
「……なるほど」
「でも丈、連休なんて無理じゃない?」
「いや、大丈夫。なんとかする」
恋人とやりたい事、他には?
さらに聞かれる。
聞かれると案外いろいろ出てくるもので、恋人というより公ちゃんとやりたかった事、叶わなかった事。
「有名な花火大会を観に行くとか、ドライブして遠出とか、記念日に特別な食事をするとか……って、自分で言ってて痛い人に思えてきたんだけど平気? 私今年32です」
「年齢関係ないけど、碧がそういうのと無縁だとは誰も思わないだろうな」
「常に誤解されてばかりで困る」
丈は少し静かになった。
けれど抱きしめる腕の力が強くなる。
やっぱり、不憫だと思っているのかもしれない。同情しているのかもしれない。
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