5.甘い手

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 あの日はやっぱり勢いでそうなっただけで、つき合うとか言っても私たち、幼馴染に毛が生えたようなもので、二度目どころかこのままもうしないつもりかもしれないし。  淋しそうにふらふらしているからとりあえず俺といろって、構ってやるって、今はそういう状況なだけで…………でもさ、キスしてやることはやるって言ってなかった? というかほとんど覚えていないが、前回私、何かやらかしたのだろうか、粗相を。身体を見ていまいちだったとか反応が良くなかったとかとか、いやいやいや…………  なに変なこと気にして。まるで丈に恋をしているような おかしな妄想。ダメだこりゃ、丈本人にはっきり聞いてみればいい、そうしよう。そう思いながらゆっくりと目を開けると、顔の前に人の影を感じる。  いつの間にか接近していた丈と、至近距離で目が合った。 「…………」 「……?」  たった数センチしか離れていない、鼻先がぶつかってしまいそうな近さだった。  丈の目が、なんとなく潤んでいるような、困っているような、多分ちょっと……間違いなければ、情欲にまみれた顔で私を見ている。  見つめ合い、言葉はなく、小さく息を飲む。互いに引き寄せられるように近づいて、どちらからともなく唇が重なる。  一度、二度、三度と、触れるだけのキスは次第に止まらなくなる。  静かな部屋の中に微かに響く、二人が密着し合う音。変なの、さっきまで聞こうと思っていたことと真逆、まるで頭の中を読まれているみたい。  丈とは時々こんな風に、考えていることがリンクする時がある。  なんだ良かった。私に欲情しないわけではなかったのね。  丈はなぜか、躊躇いながら私から離れようとしたけれど、無駄だった。熱くなっている身体を誤魔化すことはできない。  丈とのキスは身体がちゃんと覚えていて、触れた瞬間にビリビリと、なにかが弾けるような不思議な感覚があった。ひと月前の夜を思い出す。ああこれ、知ってる。
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