5.甘い手

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「……帰ってきたらいるから」 「だから急にごめんて」  変なの、いてくれて嬉しいに聞こえる。 「……明日も、朝早いよな」 「大丈夫だって近いから。さっき言った」 「…………おやすみ」 「オヤスミ、それもさっき言っ……あっ」    丈が私の腰を掴みよいしょと持ち上げて、自分の身体の上に乗せる。全然オヤスミではないではないか。言葉と行動が全く違って、可笑しい。 「寝るんじゃないの?」 「……寝るよ」 「……まだ、寝たくない」 「…………わかってる」  丈というまな板の上にのせられた状態で、全身を支えられながら再びキスが始まる。  唇をついばむような軽いキスは一瞬で終わり、すぐに舌が絡み合うような濃厚なものに変わった。呼吸するのも忘れて夢中になる。  Tシャツの隙間から入り込んだ丈の手が肌を伝い、けしてふくよかではない私の乳房を柔らかく包み 揉みしだく。まだそれほど官能的な動きではないのに胸がぎゅっとなった。 丈の手は、どうしてこんなにも気持ちがいいの? もっともっと隅から隅まで触って。  スイッチが入った男は、先程まで優しげに笑っていた人とは別人だった。  ギラついている丈が、可愛い。 「いい?」「いいよ」と、聞かなくてもいいのにわざわざ最終の意思確認。 私の〝いいよ〟を聞いた丈がはにかむように笑うから、私もつられて笑った。 *  その晩、私と丈は二度目のセックスをして眠りに就いた。けして激しくはないが、心地好く満たされて、大切に思われていることを身体で感じるような、そんな交わり。    明け方目を覚まし、隣に眠る人を見た。  丈が静かな寝息を立てながら眠っている。  寂しくはない、誰のことも思い出さない、ここに丈がいてくれるから。大丈夫。  でもやっぱり急に不安になって、怖くなって、寝ている丈を起こす勢いで抱きついた。 丈は寝ぼけながら腕を伸ばして、纏わりつく私の冷えた身体を温めてくれる。  丈と触れ合っている間は、いろんなことを忘れられた。私たち二人が愛し合う恋人同士であるかのように錯覚して。
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