5.甘い手

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 しばらく公ちゃんとは会っていない。 避けているわけではなく、公ちゃんが実家に来る機会が減ったというのもある。 『公には言わないから』    丈は私にそう言った。  あれは、どういう意味だったのだろう。  あんなに会いたいと思っていた公ちゃんと、今は会うのが少し怖い。 ◇◇ 「一人暮らしでもしようかな~」 「え?」  社食で、同じ広報部で働く同僚達と昼食をとっていた。ポロリと漏らしてしまった一言に、後輩一同が一斉に食いつく。 「どういう心境の変化ですか!? いいじゃないですか一人暮らし」 「遠いですもんね」 「そうそう」 「もしかして、恋人でもできたんですか?」 「……」 「あれ………否定しない。いつもならすぐに〝いませーん〟て言うのに」 「八重嶋さんに彼氏!?」 「あーー、うん、まあ」 「え!?」  驚いて声を出したのは、私達ではない。  偶然すぐ隣のテーブルにいた総務の面々の中に渡会 陽ちゃんがいて、目が合う。 思わず発した自分の声にびっくりしたようで、口を押えて慌てている。その表情が面白くて、ひらひらと手を振った。 「ねーー、渡会さんも気になりますよね!? 八重嶋さんの彼氏とか」 「いえあの……すみません盗み聞きみたいな真似を」 「彼氏どんな人ですか? もしかして社内にいるとか!?」 「いやまさか。料理人、幼馴染み」 「ええっ!!」  また陽ちゃん……笑わせないでよ。  多分、それが誰なのかわかったのだろう。 「あっ、そういえば八重嶋さん最近、T駅でよく見かけるって同期が言ってたんです」 「アハハ、どういう情報網なの」  T駅は、丈のアパートの最寄り駅だ。 「その同期もT駅を利用しているので」 「ああ、そういうこと」 「朝も時々見掛けるって」 「声掛けてくれたらいいのに」 「いやいや恐れ多くて、八重嶋さんに声なんて……あ、てことは、先々週くらいかな……八重嶋さん駅の近くのガード下の屋台で、ラーメン食べてませんでした!?」 「ええっ、なぜそれを! 怖いんだけど」  その日は例の7日で、丈が冗談のように設定しただった。
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