5.甘い手

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「八重嶋さんと似てるなと思ったけど本人だったんですねー、声掛ければ良かった」 「彼氏さんと一緒だったとは!」 「うん、そう。あの店の醤油ラーメンすごく美味しいから! 何曜日はどこにいるって、SNSに載せてるらしいよ? 行ってみて」  バカ正直に事情を説明するつもりはない。私の噂話など適当に広まって適当に消える。へたに隠して話がややこしくなっていくのは経験済みだから、(以前愛人説が流れた時はさすがに焦った)こういう時は「彼氏あり」と、否定しないに限る。  けどこの曖昧な状況で平気でと言ってしまう図々しさよ、矛盾、勝手すぎる、自分のことしか考えていない。そんな自分が滑稽でならない。 * 「八重嶋さん」  心配そうな顔をした陽ちゃんに、呼び止められる。 「あー、陽ちゃん。さっき笑っちゃった」 「思わず叫んじゃいました、すみません」 「うん………いやほら、びっくりしたよね。この間散々相談に乗ってもらったのに」 「何かあったんですね、お二人と」  陽ちゃんの真っ直ぐな目を真面に見ることができず、うんうんと頷きながら俯いた。 「八重嶋さん、もしかして丈さんと?」 「うん、いろいろあって……今話せないからまた今度飲みにつき合ってくれる?」 「そうですか……あ、はい。飲むのは勿論、いつでも」  後ろめたい。  言い訳できない。    呆れるでしょ? 公ちゃんのことを好きだと言った私が丈と恋人同士なんて。  丈は、公ちゃんの大切な友人なのに。  リハビリと言われたつき合いは、温かくて心地好くて、離れがたい。  ふるふると頭を揺らす。  でもまだ、一緒にいさせて。  一人になりたくないの。  曖昧なまま、丈に甘えていたい。  ごめんなさい。
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