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「八重嶋さんと似てるなと思ったけど本人だったんですねー、声掛ければ良かった」
「彼氏さんと一緒だったとは!」
「うん、そう。あの店の醤油ラーメンすごく美味しいから! 何曜日はどこにいるって、SNSに載せてるらしいよ? 行ってみて」
バカ正直に事情を説明するつもりはない。私の噂話など適当に広まって適当に消える。へたに隠して話がややこしくなっていくのは経験済みだから、(以前愛人説が流れた時はさすがに焦った)こういう時は「彼氏あり」と、否定しないに限る。
けどこの曖昧な状況で平気でいると言ってしまう図々しさよ、矛盾、勝手すぎる、自分のことしか考えていない。そんな自分が滑稽でならない。
*
「八重嶋さん」
心配そうな顔をした陽ちゃんに、呼び止められる。
「あー、陽ちゃん。さっき笑っちゃった」
「思わず叫んじゃいました、すみません」
「うん………いやほら、びっくりしたよね。この間散々相談に乗ってもらったのに」
「何かあったんですね、お二人と」
陽ちゃんの真っ直ぐな目を真面に見ることができず、うんうんと頷きながら俯いた。
「八重嶋さん、もしかして丈さんと?」
「うん、いろいろあって……今話せないからまた今度飲みにつき合ってくれる?」
「そうですか……あ、はい。飲むのは勿論、いつでも」
後ろめたい。
言い訳できない。
呆れるでしょ? 公ちゃんのことを好きだと言った私が丈と恋人同士なんて。
丈は、公ちゃんの大切な友人なのに。
リハビリと言われたつき合いは、温かくて心地好くて、離れがたい。
ふるふると頭を揺らす。
でもまだ、一緒にいさせて。
一人になりたくないの。
曖昧なまま、丈に甘えていたい。
ごめんなさい。
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