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1.花は折りたし梢は高し
カーテンの隙間から、柔らかな朝の陽光が差し込んでくる。
朝か……。
自宅ではないベッドの上で目が覚める。
見慣れない天井、生活感のない非日常的な空間、ホテル仕様のマットレスは寝心地が良く、寝返りを打ってもギシリとはいわない。
身体は少し重いがこれくらいの気怠さがちょうどいい。
……もう少し眠ろう。ひと度開いた瞼は、もう一度しっかりと閉じられた。
とあるシティホテルの一室、昨晩、濃密な時間を過ごした、男女の匂いがする。
時刻を確認しようとスマフォを探しベッドサイドに手を伸ばすと、裸の硬い上半身に腕がぶつかった。私自身もキャミソールに下はショーツ一枚というあられもない姿で布団に包まっている。
六時か……6時、六時? あ、そういえば今日は、のんびり寝ているわけにはいかないんだ。すぐ横で、まだスー…と寝息を立てている人の方を向き、声をかけた。
「透さん、ねえ、朝だよ」
私は休みだが、彼はたしか今日も仕事だと言っていた。
「……ああ、碧ちゃん、おはよう」
「おはよう」
「今、何時ですか?」
「まだ六時だけど、何時に出勤する予定?」
「決まってない。けど八時には出るかな」
「そう、それならまだ少し時間あるね」
「はい」
私よりもいくつか年上の、穏やかで丁寧な言葉遣いのこの男性は、透さんという。
透さんとは一年程前に、よく飲みに行くBARで知り合った。
誰かと打ち解けた様子で楽しそうに飲んでいる時もあれば、一人静かにお酒を楽しんでいる時もある。マイペースで独特な雰囲気を持つ大人の男性はその店の常連で、誰にでも分け隔てなく接しているところも好印象。
仲良くなるのに時間はかからなかった。
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