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「へえ、碧さんは恋人はいないんですか?」
「いませんよ、透さんは?」
「いません、でも今はいいかな」
恋人はいらない、好きな人もいらない、必要がない。そんなことをわざわざ言う人には大抵理由があると思うが、べつに聞く必要はない。私も同じだから。
それなら、そういう相手が見つかるまでの期間限定でと、成り行きで始まった関係は、おつき合いというには程遠く、世間一般的に見ると〝セフレ〟というものに該当するのかもしれないが、どうかな、それともちょっと違う。同じくらいの温度で時々会って一緒に過ごすには、心地好い相手だった。
透さんと会うのは、約一ヶ月ぶりだ。
けれどそれも、今日で最後。
期間限定の関係には、必然的に終わりがくる。何の前触れもなく。
「──碧ちゃん。こうやって会うのは、もう終わりにしましょうか」
「えっ!?」
あれからもう一年近く経ちますからね、
そう言って笑う透さんを、驚いて目を見開いたまま見つめ返した。
そんなになる? 一年も。
まさか今日こんな話になるとは……。
「どうして、って、理由聞いていい?」
「理由は、そうだな、いろいろあるけど……結婚して家庭を持ちたいと思うようになった、それが一番大きいかな。そういう人と、おつき合いしたいと思っています」
「ああ、成るほど、そういうことか」
私にはそれは、無理だからな。
そして私は、その言葉にショックを受けるほど純粋ではない。残念ながら。
「なぜそういう話を、今この時に言うかな。昨日の夜言ってよ。してる時に自分だけ、〝これが最後〟とか思ってたの?」
「うん、まあそうだね」
「うんまあそうだね……じゃなくて、先に言ってよ。ずるいんだけど」
「いつもと同じようにしたかったから」
悪びれず、でも少し寂しそうに笑うから、困ってしまう。
「最後だってわかってたらさ、」
「やらなかったのに?」
「いや、やるのはいいけど、最後だからってもっと真面目に真剣にちゃんと……」
透さんが吹き出した。
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