1.花は折りたし梢は高し

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「へえ、碧さんは恋人はいないんですか?」 「いませんよ、透さんは?」 「いません、でも今はいいかな」  恋人はいらない、好きな人もいらない、必要がない。そんなことをわざわざ言う人には大抵理由があると思うが、べつに聞く必要はない。私も同じだから。  それなら、そういう相手が見つかるまでの期間限定でと、成り行きで始まった関係は、おつき合いというには程遠く、世間一般的に見ると〝セフレ〟というものに該当するのかもしれないが、どうかな、それともちょっと違う。同じくらいの温度で時々会って一緒に過ごすには、心地好い相手だった。  透さんと会うのは、約一ヶ月ぶりだ。  けれどそれも、今日で最後。  期間限定の関係には、必然的に終わりがくる。何の前触れもなく。 「──碧ちゃん。こうやって会うのは、もう終わりにしましょうか」 「えっ!?」  あれからもう一年近く経ちますからね、 そう言って笑う透さんを、驚いて目を見開いたまま見つめ返した。  そんなになる? 一年も。  まさか今日こんな話になるとは……。 「どうして、って、理由聞いていい?」 「理由は、そうだな、いろいろあるけど……結婚して家庭を持ちたいと思うようになった、それが一番大きいかな。そういう人と、おつき合いしたいと思っています」 「ああ、成るほど、そういうことか」  私にはそれは、無理だからな。  そして私は、その言葉にショックを受けるほど純粋ではない。残念ながら。 「なぜそういう話を、今この時に言うかな。昨日の夜言ってよ。してる時に自分だけ、〝これが最後〟とか思ってたの?」 「うん、まあそうだね」 「うんまあそうだね……じゃなくて、先に言ってよ。ずるいんだけど」 「いつもと同じようにしたかったから」  悪びれず、でも少し寂しそうに笑うから、困ってしまう。 「最後だってわかってたらさ、」 「やらなかったのに?」 「いや、やるのはいいけど、最後だからってもっと真面目に真剣にちゃんと……」  透さんが吹き出した。
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