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靴を見て大体わかっていたけれど、
「ただいま……あら、丈太郎さん。いらしてたんですか? 朝から」
「……おかえり、なんだよその口調。お早いお帰りで」
「なにしてんの丈、人ん家のリビングで」
兄の元同級生で友人でもある斎木 丈太郎がリビングにいて、まるで自分の家にいるかのようにくつろいでいる。
「また朝帰りか」
「またってなによ、滅多にないから。友達と飲んでたら盛り上がっちゃって終電逃して、泊めてもらっただけですが」
「ふーん、友達ねえ」
「……」
嫌味くさい。
わかっているならいちいち聞くなよと思いながら、台所に行き手を洗う。
「めずらしいね、丈が土日休みなんて」
「ああ、店の改装工事で水曜まで休み」
丈太郎は、私の会社近くのフレンチ店で、シェフをしている。オーナーがいて雇われている立場だから自分の店という感じではないが、基本的に土日は仕事で、それ以外平日もいつも忙しそうにしている。
時々食べに行くけれど常に予約で埋まっているような人気店で、丈と会えるわけでもない。滅多にない週末の休日に、こんな場所でなにをしているというのか。
丈太郎が一人で勝手にこの家にいるわけはないから、もう一人も、この家の中にいるということだ。
「公ちゃんは?」
「今二階の自分の部屋。これから二人でソロキャンに行くからその準備。川釣りと」
「二人で行くならソロじゃないじゃん」
「まあテントはそれぞれ持って行くからな、バイクで行くし」
「33の男が二人でソロキャン……」
「悪いですか? いいんだよ、一番気楽、気ぃ遣わんし。碧も行くか?」
「……バイクで行くんでしょ? 行かない」
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