1.花は折りたし梢は高し

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 公ちゃん、久しぶりだな。  二カ月くらい?  いい大人の兄と妹が、二カ月ぶりに会うのを、久々と言っていいのかはわからないが。 「公が一緒なら行くって言うかと思ったが」 「バイクのニケツはやりません。男二人で楽しんできて。じゃ、私はこれで」 「碧、コーヒー飲みたい」 「は? 自分で淹れてよ。コーヒーメーカーと豆、ミル、そこにありますけど」 「さすがに人ん家でそんな、図々しい」 「今さら!」  私と丈太郎のこういったやり取りも、彼是二十年近くになる。  私とは子どもの頃に、ピアノ教室が一緒、水泳教室も一緒、嫌々習ってひと月で止めた書道教室まで一緒という顔見知りで、数年後兄公亮の部活の友達という設定で再会した。お互いに中学の体育着を着ていたと思う。 『──あ、やえしま』 『です』  その頃からしょっ中我が家に入り浸って、うちのリビングに居たところで何の違和感もない。私にとっても、腐れ縁の幼なじみで、八重嶋家にとっては当たり前の男、欠かせない存在でもある。  帰ってきて着替えもしないままコーヒーを淹れて、丈の座っているソファーの端に腰を下ろした。着替えて来ようかな。 「碧」 「ん?」  横に視線を移すと、丈が、めずらしく私をじっと見ていた、真剣な表情をして。 「なにか?」 「やめたら? もう」 「は?」  何を言いたいのかわからず、眉間にシワが寄る。丈は視線を外し溜息を吐く。 「何の話?」 「本当に好きな相手だって言うなら止めないけど、そういうの」 「……そういうの?」  どうして、突然そんな話をするのか。  ようやく言わんとすることがわかったが、わからないふりをする。
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