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第1話 一條さんとにじっぴ(と鷲尾)
「ねぇ、にじっぴ! 今日は朝から晴れて気温が上がって過ごしやしゅ、やす、かっタネ!」
とある放送局、スーツ姿の気象予報士が舌をもつれさせながら着ぐるみに話しかけている。
彼のとなりに立っているウーパールーパーのようなマスコットのにじっぴは『そーだね』と言いたげに体を左右に揺らす。
(いいぞっ! 今日も最高のすべり出しッ!)
番組スタッフの鷲尾は、グッとこぶしを握った。
そこらへんを転げまわって大騒ぎしたい気持ちを必死にこらえる。
「あタたたかくなってきて気になるのはァ、や、やっぱり桜の開花ダヨネ。気象会社の予想によりますと県内では──」
すでに恋という桜が満開状態。
たまらん。超かわいい。
酔狂な視線の先にあるのは、ぽかんと口をあけた愛くるしいマスコットキャラクター──ではなかった。
「今年の冬は厳しい寒さが続いたので、桜の開花が待ち遠しい方も多いのではないでしょうか」
着ぐるみの隣でカッチカチの微笑を浮かべている気象予報士の一條さん。
いま、鷲尾の世界は彼中心にまわっている。
「……あっ、デモォ、にじっぴはお花の下で食べるお団子のほうが楽しみナのカナ? ふ、フフフッ」
世界の中心はひとりでしゃべってひとりで笑っている。
にじっぴに話しかけている風ではあるが、手元の原稿に視線を落としたまま。ギクシャクとして不慣れすぎる。
(一條さあああんん! 今日もむちゃくちゃかわいいぃいいっすううう!!!)
鷲尾はますますドキドキがとまらない。
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