第2話 失恋と立ち退きと中の人

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   ──気象予報士と放送局のマスコットキャラクターが天気予報に出演する。  本当のことを言えば、他局で好評の手法をそっくりそのまま真似しているだけだ。  プロデューサーの意向である。  なんの工夫もオリジナリティもない。  それでも“一條さんとにじっぴ”は立派なコンビなのだ。  一緒にいる理由がある。 「にじっぴがボクと。それは……、うーん……言われてみればどうしてだろ」  彼は真剣に悩み、以下のように答えた。  ・視聴者が気象情報に親しみを持つため  ・画面に映っている予報士があまりにも地味で華がないから  ・せっかく予算をかけて作った局のマスコットを使いたかったから  どれもこれも一応正解ではあるものの、面白みには欠ける答え。  鷲尾は残暑厳しい9月の頃から約半年、一條さんと毎日一緒に仕事をしてきた。  生放送本番で大汗をかいて、上司にしこたまダメ出しされ、視聴者からのクレームにも冷や汗をかいた。  けれど、二人だけの慰労会をすることで、なんとか心折れずに戦ってこれた。 「『大好きだから』です」  
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