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「へっ……!?」
憂鬱そうに壁によりかかっていた一條さんは、ぴょんと飛び上がった。
「にじっぴは一條さんのことが大好きだからいつもそばにいるんっす。最高の正解でしょ?」
「鷲尾くんっ」
ダークブラウンの瞳がじんわりと濡れ、上質な革細工のようにてらてらと輝く。
鼻の頭もみるみるうちに赤く染まっている。
「ぎこちなくても噛みまくりでも出すクイズが渋くても、地味な男でも、にじっぴは一條さんの天気予報が大好きなんですよ!」
「鷲尾くぅん、わ、鷲尾くううん……っ!」
「クンクンクンって犬じゃないんスから!」
「ありがとうッ!本当に本当にありがとう! 鷲尾くぅうううん」
感無量だった。
今後はこんな風に一條さんを励ましてあげられなくなるかもしれない──そんな事実すらどうでもよくなる。
実は今日の放送後、プロデューサーの守谷さんに肩をつつかれ、耳打ちされた。
──「悪いけど、来月から別番組を担当してもらうよ。詳しくはまた今度話すから」
啓蟄──新たなるいのちが芽吹く頃。
つまり、あと一ヶ月で新年度がやってくる。
出会いと別れと番組リニューアルの春なのだ。
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