第2話 失恋と立ち退きと中の人

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   一條さんのそばにいられなくなる。  励まし合いながら一歩ずつ頑張ってきたことが、道半ばで終わってしまう。突然の終わりをむかえる。  そんな不条理、今まで何度も経験してきた。  悔しくて悔しくて、振り向かない世間を恨んでは、『次こそはうまくやる』と自分自身を奮い立たせてきた。  でも今回はまだ実感がない。  終わるなんて認められない。  まだなにも成し遂げていないのに──。 「……あ、もうこんな時間。そろそろ仕事に戻ろうか。鷲尾くん、忙しいのに長々とごめんね」  鷲尾は決意した。  世間に背を向け、一條さんだけを視界に宿し、正面で向かい合わせになる。 「鷲尾くん……?」 「実を言うと、オレ……」 「ん?」  ──失ってから気づくなんて、まっぴらごめんだ。 「にじっぴに負けないぐらい一條さんのことが好きです」 「え?」 「仕事仲間として、人として、男として、愛しています」 「う、うそ……」  一條さんはキラキラした瞳のまま、ほんの少しだけ驚いたような戸惑うような表情になった。  よく晴れた空から落ちてくる雨粒に気づいたときのよう。 「オレと付き合ってください!」  鷲尾は雨宿りしたい気持ちで頭を下げ、片手を差し出した。 「よろしくお願いします」  いつまで経っても手のひらはさびしいままだった。  思わず空をあおぐと、一條さんは弱々しくてやわらかな笑顔を浮かべていた。  そして「ありがとう。嬉しいな」と、乱れた髪を撫でつけながら、照れたように頬を赤らめている。  それって──つまり──!?  全身のありとあらゆる場所を激しく火照らせ、鷲尾はさらなる展開を待った。  もしかすると今夜、一條さんをこの手で抱いているかもしれない──夢のような現実の到来に心臓のボルテージはドンドコ上がっていく。
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