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一條さんのそばにいられなくなる。
励まし合いながら一歩ずつ頑張ってきたことが、道半ばで終わってしまう。突然の終わりをむかえる。
そんな不条理、今まで何度も経験してきた。
悔しくて悔しくて、振り向かない世間を恨んでは、『次こそはうまくやる』と自分自身を奮い立たせてきた。
でも今回はまだ実感がない。
終わるなんて認められない。
まだなにも成し遂げていないのに──。
「……あ、もうこんな時間。そろそろ仕事に戻ろうか。鷲尾くん、忙しいのに長々とごめんね」
鷲尾は決意した。
世間に背を向け、一條さんだけを視界に宿し、正面で向かい合わせになる。
「鷲尾くん……?」
「実を言うと、オレ……」
「ん?」
──失ってから気づくなんて、まっぴらごめんだ。
「にじっぴに負けないぐらい一條さんのことが好きです」
「え?」
「仕事仲間として、人として、男として、愛しています」
「う、うそ……」
一條さんはキラキラした瞳のまま、ほんの少しだけ驚いたような戸惑うような表情になった。
よく晴れた空から落ちてくる雨粒に気づいたときのよう。
「オレと付き合ってください!」
鷲尾は雨宿りしたい気持ちで頭を下げ、片手を差し出した。
「よろしくお願いします」
いつまで経っても手のひらはさびしいままだった。
思わず空をあおぐと、一條さんは弱々しくてやわらかな笑顔を浮かべていた。
そして「ありがとう。嬉しいな」と、乱れた髪を撫でつけながら、照れたように頬を赤らめている。
それって──つまり──!?
全身のありとあらゆる場所を激しく火照らせ、鷲尾はさらなる展開を待った。
もしかすると今夜、一條さんをこの手で抱いているかもしれない──夢のような現実の到来に心臓のボルテージはドンドコ上がっていく。
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