第2話 失恋と立ち退きと中の人

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   信じてたまるか──だが、あとから『塩盛っておけばよかった』と後悔するのは腹立つ。  そんなわけでカップアイスのフタの上に、三角形の盛り塩をして出入口の前に置いたのだ。  それを今の今まですっかり忘れ、踏んづけてしまった。  あれから二ヶ月たった──もうすぐ春だ。  この立ち退きが生まれ変わりというやつだろうか。 「わけわかんねぇ。突然生まれ変わるとか困る……」  すっかり崩れてしまった盛り塩を洗い流し、五年間住んだ自分の部屋を見渡す。  ──とはいっても、首を左右にちょっと振ればじゅうぶんの六畳一間だ。 「あんま困んねぇな」  いつも持ち歩いている黄色のスクエアリュック。服と下着が数枚。羽毛布団とエアーマット。  あとは食べ物飲み物のちょっとした備蓄のみ。  回収日に出せないままでいるゴミ袋のほうが持ち物よりもはるかに多い。  引っ越し先さえあれば、三日どころか3分もかからずに移住できる。たぶん。  
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