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◆ ◆ ◆
『なになに、お兄。もうお小遣いくれるとか太っ腹じゃーん』
こういうとき最高に役に立つ存在がいる。おとうとの葵だ。
24時間受付のなんでも屋をしている──だが、半年前に起業したばかりで一人前に食べていくにはまだ依頼が少ない。
鷲尾は兄として定期的に雑用を依頼し、臨時収入をめぐんでいるのだ。
先月末に赤カビだらけだった風呂場や洗面所を掃除してくれと頼んだばかりだった。
「次に住む部屋を探してくれ。局の近くならどこでもいい。とにかく早く」
『そういえばお兄のいるエリア取り壊しの物件多いみたいだねー! 引っ越しのお手伝いしてくれって依頼が何件か入ってるんだあ。しょーがないねー行政には立ち向かえんもんねー』
のんびりとした口ぶりは頼りなさを感じるが、カタカタとキーボードを叩く音がする。
さっそく探しているらしい。
『そういえばー、たまに見てるよお、夕方のお天気予報。今日の噛みっぷりすごかったねえ! かわいすぎて爆笑しちゃったー』
「……っ」
鷲尾は思わずスマホをグッとにぎった。
さすが、弟。
同じ遺伝子でつくられているだけはある。
鷲尾と葵は双子である。
ヨチヨチ歩きの頃からどちらも目鼻立ちがハッキリとして、髪も眉毛も入道雲レベルの超くせっ毛だ。あ・うんの狛犬のようだと大人達にからかわれていた。
成長期に葵の背が一気にのび、見下されるほどの身長差がついてしまうまでは本当に瓜二つだった。
もう一人の自分と言っても過言ではない弟が一條さんのかわいさを理解している。その嬉しさで鷲尾はうっかりニヤニヤしそうになる。
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